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インドネシア

大規模地震に襲われたロンボク島に新たな危機 復旧進まぬまま雨期到来でマラリア流行の兆し

2018年9月20日(木)21時32分
大塚智彦(PanAsiaNews)

避難所に蚊帳を吊るなど感染症対策が始まったロンボク島 KOMPASTV / YouTube

<災害時の避難所生活は日本でも衛生状態の悪化が心配されるが、インドネシアは雨期に向けて感染症への対応が急がれている>

インドネシアの国際的な観光地バリ島の東に隣接するロンボク島は、バリに次ぐ観光地として人気を集めている。ところが2018年7月29日にマグニチュード6.4の地震がロンボク島北部一帯を襲い、その後も8月5日、8月15日とマグニチュード7に近い地震が続発。これまでに死者555人、負傷者7700人、被災者約35万人という深刻な被害に見舞われている。

地震で家屋や商店が軒並み倒壊し、テントや避難所での生活を余儀なくされた住民には食料や生活物資、医薬品などの救援物資が十分に届いていないのが現状だが、ここへきて新たな問題が発生している。

それは感染症の流行だ。衛生状態のよくない避難所やテント暮らしの住民を中心にマラリアが拡大し、9月中旬までに昨年同期比で約2倍となる137人が感染。地元自治体が「公衆衛生緊急事態」を宣言するまでになっている。感染者には乳児や妊婦も含まれているという。

マラリアはマラリア原虫を持つハマダラ蚊を介して人に感染する病気で、40度近い高熱が続き、悪寒や頭痛、吐き気といった症状がでる。予防、治療が可能な感染症だが、症状が重篤な場合は死亡することもある。

ロンボク島の西ロンボク県当局者はロンボク地震の被災者を中心にマラリア感染者が急増しており、ハマダラ蚊予防のため蚊帳の緊急配布を始めた。さらに中央政府保健省も医療班を現地に派遣することを決めるなど感染拡大阻止と感染者の治療に全力を挙げている。


避難所に蚊帳を吊るなど感染症対策が始まったロンボク島 KOMPASTV / YouTube

相次ぐ地震でインフラや家屋破壊

ロンボク島では7月29日に同島北部を震源とするマグニチュード6.4の地震が発生。8月5日の同7規模に続き8月19日には同6.9の地震が発生した。余震も数多く発生し、耐震構造などない多くの住居や商業建物が崩壊し、犠牲者の多くはこうした建物の瓦礫の下敷きになって死亡したケースが大半という。

バリ島に隣接しながら、大規模な観光開発が進んだバリ島より素朴なインドネシアの地方の魅力が残るとされるロンボク島は「バリ島に満足できなくなった観光客を引きつける魅力」が売り物の島で、近年観光開発も進んでいた。

特にロンボク島北西沖に点在する3つのギリ島(ギリアイル、ギリメノ、ギリトラワンガン)は手付かずの自然が残るオーシャンリゾートとして人気が沸騰。外国人観光客が押し寄せる場所となっていた。

ところが今回の地震発生ではギリ3島に滞在していた外国人観光客約1000人が一時的に島に取り残され、地元の漁船などがピストン輸送でロンボク島本島への脱出を支援した。

またトレッキングなどで近年登山客が増えていた同島北部のリンジャニ山(3726メートル)でも地震発生時に土砂崩れが発生し、登山客数百人が下山できず一時孤立する事態も起きた。

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