焦点:関税交渉まとまらず、石破政権 参院選控え「国益」重視アピール

6月17日、日米の関税交渉は首脳間の直接会談でもまとまらず、見通しがつかないまま持ち越された。16日、アルバータ州カナナスキスで撮影(2025年 ロイター/Amber Bracken)
Kentaro Sugiyama Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 17日 ロイター] - 日米の関税交渉は首脳間の直接会談でもまとまらず、見通しがつかないまま持ち越された。関税措置の撤廃や軽減に向け一定の合意を得られれば夏の参院選で追い風になったが、複数の関係者によると、肝心の自動車関税で成果を得るのが困難との認識が日本側で広がった。安易な合意で譲歩するより、「国益」を守る強い姿勢をアピールする方向に傾いた形だ。
<急速にトーンダウン>
交渉の焦点は自動車分野の関税だった。すそ野の広い自動車は全産業の1割を雇用する日本の基幹産業で、輸送用機器全体では国内総生産(GDP)の約3%を占める。政府関係者の1人によると、赤沢亮正経済再生相をトップとした日本の交渉団は税率25%の完全撤廃を米国側に要求し続けた。
赤沢氏は4月中旬以降、石破茂首相とトランプ大統領がカナダで会談するまでに6回訪米した。初回にホワイトハウスでトランプ大統領と向き合い、その後もベセント財務長官やラトニック商務長官らと交渉を重ねた。日本は農産品や液化天然ガス(LNG)などの輸入拡大、輸入車の認証緩和など非関税障壁の見直し、造船分野の技術協力など、対米貿易黒字を減らす取り組みや経済安全保障面の協力を検討した。
しかし、日本の関係者の間では、自動車関税の「完全撤廃は困難」との見方が途中で強まった。前出と別の関係者によれば、日本が要求し続けた25%の関税撤廃に対し、米側から色よい感触は得られなかった。自動車関税交渉の行方が交渉全体の評価を左右するとの認識は政府・与党内で広く共有されており、経済官庁の関係者は「ほかの分野でいくら合意しても自動車で進展がなければ、まったく意味がない」と話していた。
赤沢経済再生相は5月末の4回目の訪米時に「米側も(自動車関税に)強い関心がある」と記者団に述べていたが、6月7日に5回目の閣僚協議を終了した後は「一致点は見いだせてない」と語った。日米の首脳会談を目前に控えた13日の6回目の協議後は、合意の道筋がついたかと報道陣から問われて答えを避けた。前出と別の経済官庁の関係者によると、日米とも途中から急速に合意への機運が低下したという。「合意を急いでいない米国を動かすだけの強い交渉材料を示せなかった」と、同関係者は言う。
そして日本時間17日未明に迎えた日米首脳会談。トランプ大統領と約30分向き合った石破首相は、「今なお、双方の認識が一致していない。そういう点が残っているので、パッケージ全体としての合意には至っていない」と記者団を前に淡々と語った。「いつまでに、と言うことは困難」と述べた。
5月に訪米し、多くのトランプ政権関係者と意見交換をしたキヤノングローバル戦略研究所の峯村健司主任研究員は「当時から、国務省を含めてG7で合意できるなどという楽観論は皆無だった。日米の認識のずれが露呈していた」と話す。「今回合意に至らなかったのは想定内と言える」と言う。
<「タフネゴシエーター」を演出>
一方、参院選が念頭にある政府や与党の関係者の間からは、日本が「タフネゴシエーター」であることを演出できたとの声が聞かれる。ある自民党議員は「相互関税の上乗せ分だけを取り下げた程度では期待外れという反応が出る。それくらいなら参院選が終わってからの着地に繰り延べてもいい」と話していた。前出の政府関係者の1人は「参院選を控える中、トランプ政権と同様、国内への『見せ方』が重要になる」と語っていた。
その間も関税の影響は、対米輸出が多い日本企業にのしかかる。トヨタ自動車は2026年3月期の業績見通しに4、5月分の関税の影響しか織り込んでいないが、それでも営業利益を1800億円下押しするとみている。日産自動車は通年で最大4500億円の影響を見込む。マツダは関税で合理的な算定が困難として、今年度の業績見通しを開示していない。
交渉の長期化が現実味を帯びる中、今後は自動車業界への支援策などに焦点が移りそうだ。前出と別の政府関係者は「まずは関税撤廃に向けた交渉が重要だが、自動車業界への対応は年末の補正予算のテーマになるだろう」と話す。