最新記事

メディア

アジア駐在の欧米特派員はセクハラ男だらけ

2018年6月21日(木)18時00分
ジョアナ・チュー(AFP中国特派員)

セクハラや性差別の被害者は、現地スタッフに限らない。アジアでアメリカの主要メディアの外国特派員を15年以上務めてきたある女性は、過去に何度も記者仲間から露骨な性差別を受けたと言う。時には、男性の同僚に手柄を横取りされた。ある上司には、君には子供がいるから昇進は無理だと言われたこともある。

「公平な法制度がない環境では、現地部門はやりたい放題で逃げ切れる。契約の『現地採用』や『現地国の法を適用』といった条項のせいで、苦情の申し立てが難しい」と、彼女は言う。

その結果、現地採用でないスタッフも苦情を申告しにくい状況ができる。「上級管理職に不平を申し立てても返答がなく、本社の人事部に掛け合ってもらちが明かない」こともある。

ある時、彼女は有力な情報源の人物からレイプされそうになった。しかし彼女はそれを上司に報告しなかった。それが明らかになれば自分のキャリアに傷が付くと思ったからだ。

本社から出張で来る記者も、現地スタッフをぞんざいに扱いがちだ。とりわけ女性への接し方はひどい。

マレーシアのベテラン女性ジャーナリストが、米有力紙の上級特派員を昨年、クアラルンプールで迎えたときの経験を語ってくれた。彼女が彼に然るべき情報源を教えると、彼は彼女を食事に誘った。お礼のつもりなのだろうと思って、彼女は応じた。

「最初は世間話だったが、彼は私に付き合っている人はいるかと尋ね、性生活について聞いてきた。私は冗談でかわし、彼が取り組んでいるプロジェクトに話題を変えようとした。やがてトイレに行くと、出てきたところでいきなり抱き付かれ、キスされそうになった。私は顔を背け、『やめてください』と2度繰り返した。ショックだった。彼が下着を着けていないのが分かった。パニックに陥ったが、相手は超一流メディアの特派員。すっぱり切り捨てるわけにはいかなかった」

仕事への影響を恐れ、彼女は匿名を条件に取材に応じてくれた。

10年来アジア各地で取材し、中国の雲南省に住んだこともあるマット・スキヤベンザに言わせると、酒の安さや人目を気にしないでいい環境、セクハラに対する現地の対応の甘さなど、さまざま要因が絡み合っている。「男性特派員の中にはジェームズ・ボンドばりのプレイボーイを気取り、大勢の女性とセックスしてこそ特派員だと勘違いしている連中がいる」と、彼は言う。

記者のセクハラ観は要確認

セクハラ被害に追われるようにして業界を去る女性は多い。加えて給与格差も立ちふさがる。1月にはBBCのキャリー・グレイシー中国編集長が、北米や中東の男性編集長が自分や他の女性編集長より「少なくとも50%高い」給与を得ていることに抗議して、編集長を辞任した。

ソーシャルメディアの普及でジャーナリスト個人の発言の場が増えるにつれ、こうした問題は一般に知られるようになった。しかしアメリカのシンクタンク「ウッドロー・ウィルソン国際研究センター」で米中関係を研究するルイ・チョンによれば、「#MeToo」運動をめぐるアジア各地の報道に反発するかのように、SNS上で怪しげなハラスメント観を披露する男性ジャーナリストも少なくない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米鉱工業生産、4月製造業は0.3%低下 市場予想下

ビジネス

米4月輸入物価、前月比0.9%上昇 約2年ぶり大幅

ワールド

EXCLUSIVE-トルコ、予算削減額は予想上回る

ビジネス

米金利維持が物価目標達成につながる=クリーブランド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中