最新記事

知能

「人間の知能指数が年々上昇する」というフリン効果は20世紀に終わっていた!?

2018年6月15日(金)16時00分
松岡由希子

1970年代半ば以降、明らかにIQが低下している!?  francescoch-iStock

<ノルウェー男性の徴兵制データを分析すると、1970年代半ばに知能指数がピークに達し、それ以降、明らかに低下していた>

「人間の知能指数(IQ)は、年々、上昇し続ける」。この現象は、ニュージーランドオタゴ大学のジェームズ・フリン教授が1984年の研究論文で初めて示したことから「フリン効果」と呼ばれている。

フリン教授はこの研究において「1978年のIQは1932年に比べて13.8ポイント高くなっており、IQは、1年あたり0.3ポイント、10年ごとに3ポイント上昇している」と明らかにした。

しかしながら近年の研究結果では、「フリン効果」とは真逆に、「年々、IQが低下する」という「負のフリン効果」が示されている。

1970年代半ば以降、明らかにIQが低下している

ノルウェーのラグナー・フリッシュセンターの研究プロジェクトは、2018年6月11日、学術雑誌「米国科学アカデミー紀要」において、「フリン効果は1970年代半ばにピークに達し、それ以降、明らかにIQが低下している」との研究論文を発表した。

この研究プロジェクトでは、1962年から1991年までに生まれたノルウェー男性73万人以上を対象に、徴兵制データから抽出された18歳または19歳時点のIQを分析した。その結果、「フリン効果」は1975年以後に転換期を迎えたとみられ、IQは世代ごとに7ポイント低くなっているという。

この研究プロジェクトは、血縁関係にある家族内での「フリン効果」についても調べた。これによると、父よりも息子、兄よりも弟というように、親子や兄弟でも「負のフリン効果」が認められたという。

「負のフリン効果」をもたらしている要因

では、「負のフリン効果」をもたらしている要因は、いったい何なのだろうか。

英アルスター研究所が2016年10月に発表した「負のフリン効果」に関する文献レビューでは、その原因として移民や男女比などが指摘されていたが、この研究結果では、IQの低下と遺伝子や環境要因との因果関係を示すものは見つかっていない。

このほかの要因としては、ライフスタイルの変化や、子どもへの教育手法、子どもの成長プロセスなどが挙げられている。また、既存のIQテストが、現代の教育や若者のライフスタイルを十分に考慮しておらず、現代人の知能を正しく定量化するのに適していない可能性もあるだろう。

いずれもせよ、まずは「負のフリン効果」を引き起こしている要因を明らかにすることこそ、フリン効果を再び負から正に転換させる第一歩といえそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米シティ、ロシア部門売却を取締役会が承認 損失12

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席と首脳会談

ワールド

マレーシア野党連合、ヤシン元首相がトップ辞任へ

ビジネス

東京株式市場・大引け=続落、5万円台維持 年末株価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中