最新記事

アメリカ政治

米朝首脳会談、1972年のニクソン訪中と外交的意義はどう違う?

2018年6月15日(金)10時00分

6月12日、トランプ米大統領が、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と行った史上初の米朝首脳会談は、1972年のニクソン大統領による初の中国訪問を彷彿させるかもしれない。写真はシンガポールで記者会見に臨むトランプ大統領(2018年 ロイター/Jonathan Ernst)

トランプ米大統領が12日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と行った史上初の米朝首脳会談は、1972年のニクソン大統領による初の中国訪問を彷彿させるかもしれない。しかし今回、北朝鮮から非核化に向けた具体的な約束を何一つ獲得できなかった様相から、この二つは外交的意義の点では似て非なる政治イベントと言えそうだ。

トランプ氏は正恩氏との会談の成功を早速広言したとはいえ、2人が署名した「シンガポール共同声明」はほとんどが、北朝鮮が歴代の米政権に対して守れなかった約束の焼き直しにすぎない、と専門家は断定した。

そうなるとトランプ氏が国際社会もしくは米国内で政治的な追い風を受け続けるには、次回以降の北朝鮮との交渉で、同氏が「非常に迅速に始まる」と大見得を切った非核化プロセスが、目に見えて進むことを示す必要があるだろう。

トランプ氏は12日の会談で北朝鮮の長距離核ミサイルから米国を安全にするという面で何か成果を得たわけではないが、今後国内で北朝鮮を外交交渉の席に引っ張り出したことが、「米国第一」政策の一環として国土を守る仕事をしている証拠だとアピールする公算が大きい。

与党の共和党も11月の中間選挙をにらみ、有権者に首脳会談成功を売り込むとともに、このまま同党に多数派を維持する方が得策だと訴える可能性がある。

それでも多くの専門家は、正恩氏が核武装を放棄するのは疑わしいと考えている。

米シンクタンク「ファウンデーション・フォー・ディフェンス・オブ・デモクラシーズ」のアンソニー・ルギエロ上席研究員は「残念ながら、正恩氏が核武装を放棄するという戦略的決断を下したかどうかは不明だし、今後の交渉が非核化という最終目標につながるかも分からない」と語り、今回の動きは目立った進展がなかった10年前の交渉の再現を思わせるとの見方を示した。

なし崩しの懸念

トランプ氏と正恩氏が約束した朝鮮半島の「完全な非核化」については、北朝鮮側が米政府の核武装解除の定義を受け入れたわけではないとの解釈が広がっている。

かつて米政府当局者として北朝鮮との外交交渉を担当したエバンス・リビア氏は「共同声明には重要な要素がほぼゼロで、新鮮味にも乏しい。願望込みの目標が列挙されている。これは北朝鮮にとって勝利で、何の意義も生み出さなかったと見受けられる」と手厳しい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ中、ガス輸送管「シベリアの力2」で近い将来に契約

ビジネス

米テスラ、自動運転システム開発で中国データの活用計

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ワールド

ウクライナがクリミア基地攻撃、ロ戦闘機3機を破壊=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中