最新記事

ミャンマー

スーチー崇拝が鈍らせるロヒンギャ難民への対応

2017年9月30日(土)14時30分
ジョシュア・キーティング

スーチーはようやくロヒンギャ問題について国民に向けて演説した(9月19日) Soe Zeya Tun-REUTERS

<ロヒンギャ迫害をフェイクニュースと言い切った、ノーベル平和賞受賞者スーチーの言動から学ぶべき教訓>

ミャンマー(ビルマ)のイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる人道危機が深刻化している。既に40万人以上のロヒンギャが、バングラデシュとの国境を越えたといわれる。

ロヒンギャ難民たちは、ミャンマー軍や地元住民による虐殺や村の焼き打ちから逃げてきたと主張。国連は9月上旬の報告書で、1000人を超えるロヒンギャが殺害された可能性を指摘した。

しかし仏教徒が過半数を占めるミャンマーの政府は、こうした主張を否定。ロヒンギャの過激派による警察署襲撃を受けて、対テロ作戦を実行しているだけだと主張している(ミャンマー当局はロヒンギャを正式な民族・市民と認めていない)。

イスラム諸国からは、非難の声が上がっている。マレーシアとインドネシアは、率先してミャンマーに圧力をかけている。トルコのエルドアン大統領は、ロヒンギャに対する暴力を「集団虐殺」だと非難した。

欧米諸国の反応は鈍い。なかでもアメリカは、「事態を憂慮している」というお決まりの声明を発表した程度だ。その一因は、いまアメリカの注意が北朝鮮の核問題に向いていることにある。また、既にシリア難民への対応に苦慮している欧米諸国に、別のイスラム難民を支える意欲がうせていることも確かだ。

しかし各国の間には、ミャンマー、特に指導者であるアウンサンスーチーを批判したくないという思いもあるようだ。

スーチーは90年の選挙で軍事政権に勝利を否定されて以降、20年間を自宅軟禁下で過ごすうちに国際的な著名人となった。91年にはノーベル平和賞を受賞。彼女が10年に自宅軟禁を解かれて再び選挙への出馬を許されると、外交と制裁政策の勝利、そして人権問題における米オバマ政権にとっての勝利とされた。

英雄でも悪人でもなく

憲法の規定によって大統領の座に就くことはできないが、15年の選挙でスーチー率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝すると、彼女を事実上の指導者に据えるために「国家顧問」ポストが新設された。スーチーがネルソン・マンデラのような「国際的な偉人」の仲間入りをするのは、確実と思われた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中