最新記事

ドキュメンタリー

ロシアのドーピング疑惑を暴く、ネットフリックス配信ドキュメンタリー

2017年9月13日(水)10時45分
スタブ・ジブ

自分を実験台にドーピング検査体制の欠陥を暴露しようとしたフォーゲルだが、事態は予期せぬ方向に展開していく Icarus Official Trailer-Netflix/YOUTUBE

<骨太ドキュメンタリー映画『イカロス』は、ロシアの国を挙げてのドーピング疑惑に肉薄する>

こういう映画になる予定じゃなかったんだ――。ネットフリックスで配信中のドキュメンタリー映画『イカロス』のブライアン・フォーゲル監督は言う。当初は『スーパーサイズ・ミー』(04年)のドーピング版のようなものを考えていたという。

モーガン・スパーロック監督がマクドナルドのファストフードを食べ続け、自分の体に起きる変化を記録した映画『スーパーサイズ・ミー』は、大きな話題となった。一方のフォーゲルが目を付けたのは食べ物ではなく、スポーツ選手が薬物を使って運動能力を高める「ドーピング」だった。

きっかけは、一時は史上最高の自転車競技選手とも言われたランス・アームストロングのドーピング問題だ。アームストロングは、世界最高峰のロードレース「ツール・ド・フランス」を7連覇した偉業の持ち主だったが、現役引退後の13年にドーピングを告白。過去の栄冠のほとんどを剝奪された。

フォーゲルが気になったのは、アームストロングが長年、「ドーピング検査で失格になったことは一度もない」と強調していたことだ。長年疑惑の噂はあったが、本人は検査結果を理由に断固疑惑を否定していた。ようやく不正を認めたのも、ドーピングが発覚した元チームメイトが、アームストロングもやっていたことを暴露したからだ。

【参考記事】出場停止勧告を受けたロシア陸上界の果てしない腐敗

アームストロングが「なぜそんなことをしたのかではなく、検査体制の欠陥が気になった」と、フォーゲルは言う。そこで自ら薬物を摂取し、ドーピング検査をパスして自転車レースに出場することで、「現在の検査体制はクズであることを証明する」ことにした。

舞台として選んだのは、フランス・アルプスを7日間走り抜けるアマチュア(といっても過酷な)自転車ロードレース「オートルート」だ。フォーゲルは専門家の細かなアドバイスを受けながら、薬物を正確に摂取して、レースに向けたトレーニングを開始した。

ところが専門家の1人、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)オリンピックラボのドナルド・カトリンが、この実験は自分のキャリアを傷つけかねないと不安を抱くようになった。そこで代わりに旧友を紹介すると言ってきた。モスクワ・ドーピング検査所のグリゴリー・ロドチェンコフ所長だ。「それが全ての始まりだった」と、フォーゲルは振り返る。

こうして2人は14年5月以降、ビデオチャットや電話で話をし、データを検討。ロドチェンコフはフォーゲルに、薬物の種類や尿の保存方法について助言した。モスクワとロサンゼルスを訪問し合うことも何度かあり、友達にもなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市政権にふさわしい諮問会議議員、首相と人選=城内

ワールド

トランプ氏「イランが制裁解除を打診」

ビジネス

オープンAI、半導体工場建設で米政府の融資保証獲得

ビジネス

午前の日経平均は反落、主力株主導で5万円割れ 好決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中