最新記事

人道問題

コンゴ・カビラ大統領とルワンダの利権 ----コンゴ中央部、国連とムクウェゲ医師の「忘れられた危機」

2017年9月11日(月)18時00分
米川正子(立教大学特定課題研究員、コンゴの性暴力と紛争を考える会)

それと同時に、国連や昨年初来日したデニ・ムクウェゲ医師(上記の記事参照)を巻き込んださまざまな「忘れられた危機」が起きており、それらはすべてJ・カビラ大統領(とルワンダ政府)の利権のもとで相互に関連しあっている。

【参考記事】戦争兵器としての強姦が続くコンゴ
【参考記事】コンゴ「武器としての性暴力」と闘う医師に学ぶこと

カサイ州における「暴力」の背景

カサイ州では1960年代、コンゴからの分離独立運動に伴って、多くの死者や国内避難民が発生したが、それ以降は比較的安定していた。そのカサイ州で昨年8月以降、「暴力」が続いていると国際メディアは報道している。が、その実態はほぼ「虐殺行為」に近いと考えられ、8月現在、死者は3,300人以上にのぼり、集団墓地も80カ所発見された。その「暴力」の原因とは一体何であろうか?

カサイ州にはもともとナショナリストが多く、パトリス・ルムンバ(Patrice Lumumba)初代首相(1961年にCIAとベルギー政府によって暗殺される)や、50年以上野党で活動し、国民的英雄でもあるエティエンヌ・チセケディ野党党首(Etienne Tshisekedi)の出身地である。同州の伝統的首長カムウィナ・ンサプ(Kamuina Nsapu)氏も野党の支持者であったため、当然、中央政府から敵視されていた。

その中央政府が2015年、伝統的首長の権威を検討する法律を成立した。伝統的首長とは、家庭内問題や土地問題などを解決するという大事な役割を果たしている。コンゴ全州の伝統的首長のほとんどがカビラ大統領の支持者であるが、この法律は、伝統的首長に対して間接的にJ・カビラ大統領への忠誠を誓わせるもので、伝統的首長にとって脅迫を意味している。

そして2016年初め、警察と政府軍が、カサイ州民の伝統文化やアイデンティティの象徴として捉えられていた伝統的首長の屋敷を破壊し、現地の人々に大きな衝撃を与えた。このことを受け、同年6月、ンサプ首長はJ・カビラ大統領の退陣(後述)を求めて蜂起したのだが、2カ月後の8月に殺害され、同首長の支援者と支援組織が政府軍に対して立ち上がった。

このカサイ州の「暴力」は意図的に長期化し、悪化させられていると疑われている。それは、コンゴ南東部のカタンガ州にいる民兵「カタ・カタンガ」(Kata Katanga)をカサイ州に輸送し、暴力を振るわせていると言われているからだ。カタ・カタンガはもともとコンゴ政府と敵対関係であったが、政府はカビラの私利のために、この民兵を利用することにした。その証拠として、カタ・カタンガのリーダー、ゲデオン・キュング(Gedeon Kyungu)は以前、ある罪で投獄されたことがあり、その後、刑務所から逃亡したのだが、2015年以降、政府の迎賓館に住んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中