最新記事

ロシア

プーチンのおかげで高まるスターリン人気

2017年8月24日(木)16時40分
アレクサンダー・ナザリアン

恐怖支配を敷いた独裁者スターリンが再び英雄に祭り上げられている Alexander Demanchuk-REUTERS

<スターリンの大粛清の血塗られた歴史は忘れ去られ、「歴史上最も重要な人物」に選ばれるまでに>

1970~80年代のソ連では、「偉大な革命家」ウラジミール・レーニンの肖像が街にあふれていた。しかしその後を継いだヨシフ・スターリンの肖像を見掛けることは皆無だった。

独裁者スターリンの罪を暴いたのは、後継者のニキータ・フルシチョフだ。56年のソ連共産党大会で秘密報告を行い、大粛清の恐るべき実態などスターリンの個人崇拝が招いた弊害を糾弾、世界を震撼させた。以後、スターリンを革命の英雄とあがめる風潮はなくなった。

70年代にモスクワで育ったジャーナリストのマーシャ・ガッセンは、スターリンについて「学校では教わらなかった」と言う。「まるで存在しなかった人物のよう。スターリン時代は丸ごと歴史から消されていた」

だが今、葬り去られたはずの偶像が掘り起こされ、再び人々の崇拝の的になっている。

かつてドイツ軍とソ連軍が激しい攻防戦を繰り広げたボルゴグラード(スターリングラード)に程近いボルガ川東岸の都市サマラには、42年にスターリンのために建設された地下壕がある。91年のソ連崩壊以前には地下壕の存在は隠されていたが、今ではここはちょっとした観光スポットになっている。

フルシチョフの曽孫ニーナ・フルシチョワは最近ここを訪れ、ショックを受けたと話す。「自分の目を疑った。大量虐殺を行った人間が再び英雄に祭り上げられるなんて」

ドナルド・トランプ米大統領の誕生が多くのアメリカ人にとって晴天のへきれきだったように、ソ連時代を知る人たちにとってスターリンの復権はまさかの展開だ。ロシアには強権的な指導者を求める国民感情が根強くあるから、この風潮はなおさら危険と言わざるを得ない。

【参考記事】この男、プーチン大統領が「中東の盟主」になる日

民主主義より大国主義

スターリンの罪は忘れ去られ、第二次大戦を勝利に導いたと持ち上げられるなど、偉大さばかりが喧伝されている。スターリンの復権は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が長年温めてきた構想だからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中