最新記事

メディア

次はドイツを襲うフェイクニュース

2017年8月2日(水)16時50分
ロサリン・ウォレン

webw170802-fake02.jpg

反移民感情の高まりを受けて選挙を控えたメルケルの姿勢にも変化 Jasper Junen-Bloomberg/GETTY IMAGES

危険を招く偽ニュース

問題は、少女の主張が嘘だったことだ。そしてこんな虚偽報道があり得るならば、ロシアが情報のリークやサイバー攻撃、偽ニュースなどを駆使して9月の連邦議会選挙に介入し、ドイツ国内約300万のロシア系住民の投票行動に影響を及ぼすことも考えられるだろう。

アツェドとリーは、こうした偽ニュースが9月の選挙にどう影響するかは不透明だと言う。ドイツ国民が報道機関をどれだけ信用しているかについては、複数の調査結果にばらつきがあるためだ。

だが2人は、偽ニュースによってあおられた反移民感情が、移民政策に対するメルケルの姿勢を硬化させたと指摘する。メルケルは昨年12月、顔を覆うタイプのベールの着用禁止を支持する意向を表明した。右派の主張に歩み寄ったことになる。

冒頭の事件のバーの店主マイは今も、集団暴行の話は本当だと主張している。

「そんな話を広めて、何の得になる?」とマイは店の片隅でぼやいた。実際、偽ニュースの発信元と報じられて以来、すっかり客足は途絶えた。「店に来るのは私を人種差別主義者と非難する人ばかり。ここはナチスのバーかと聞かれることもある」

【参考記事】失踪中のドイツ人少女 ISISメンバーとしてイラクで発見

それでもフランクフルト警察はマイの話を嘘と断定し、他にも偽ニュースはたくさんあると言う。1月にはドルトムント警察が、ある暴徒が昨年大みそかに「アラーは偉大なり」と叫びながら教会に放火したとするブライトバートの報道を否定する事態もあった。

「偽ニュースは危険だ」とフランクフルト警察のマコーマックは言う。「多くの人が、それを真実と信じかねないから」

セックス・モブ騒動の顚末を見れば分かる。ドイツ人だって、今は簡単にだまされる。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年6月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国4月PMI、製造業・非製造業ともに拡大ペース鈍

ビジネス

米金利オプション市場、FRB利上げの可能性上昇を示

ビジネス

訂正-仏ロクシタン、株式を非公開化 18億米ドルで

ビジネス

商船三井、25年3月期純利益は減益予想 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中