最新記事

メディア

次はドイツを襲うフェイクニュース

2017年8月2日(水)16時50分
ロサリン・ウォレン

厳しさ断トツの規制法

「もはや世論は25年前のようには形成されない」。昨年11月にメルケルはそう嘆いた。「今はフェイクサイトがあり、その情報を際限なく拡散するアルゴリズムがある。そういう悪質なソフトに対処する方法を、私たちも学ばなくては」

ドイツの対処法は他国に例を見ないほどアグレッシブだ。今年春、ドイツではソーシャルメディア規制法案が提出された。ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアが、意図的なフェイクニュースや違法なヘイトスピーチの投稿を放置して削除しない場合は最高5000万ユーロ(約61億円)の罰金を科すというもの。法案はメルケル内閣の承認を得ており、今夏にも成立する公算が大きい。

フェイスブックは法案に反対を表明し、「ドイツにおいて何が違法行為かという判断を、裁判所ではなく民間企業に強いるものだ」と声明で主張した。それでも同社は今年末までに、同国内のコンテンツ監視チームを700人に増員し、第三者機関に委託して偽ニュースの削減に努めると約束した。

ドイツ国内の偽ニュースの多くは、政治的な偏見に基づいている。そして自分の意見やイデオロギーが正しいことを確認したいという一般大衆の願望に付け込む内容だ。

【参考記事】揺れる欧州夏の音楽祭──スウェーデンで性暴力多発、ドイツでテロと間違い全員避難

15年以降だけで約200万人も増えた難民問題に関するものも多い。多くの国民は難民への門戸開放政策を支持しているが、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の指導者たちは、難民を嫌う人々の感情を最大限に利用している。

難民に関する偽ニュースを暴く同国のウェブサイト「ホークスマップ」は、昨年だけで少なくとも250本の偽ニュースを発見したとしている。その最も一般的なテーマは強盗やレイプなど。ほかにも難民が白鳥を食べたとか、墓を荒らした、女性に性的嫌がらせをしたなどの根拠なき主張が流されていた。

移民問題が選挙に及ぼす影響を調査している団体マイグレーション・ボーターのミリアム・アツェドとクリスティーナ・リーによれば、15年の大みそかにケルンで実際に起きた性的暴行事件が現在の偽ニュースに「不穏なパターン」をもたらしている。女性に対する性的虐待をでっち上げるという手法だ。

ケルン事件の報道が出た少し後の昨年1月には、首都ベルリン在住でロシア系の少女(13)が、アラブ系の難民たちに拉致されレイプされたと主張した。

ドイツ国内のロシア語テレビ局は、この少女の主張の一部を番組で取り上げ、「ベルリン警察が少女の訴えを無視している」という内容の放送をした。するとベルリン市街では大きな抗議デモが起こった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英ユダヤ教会堂で襲撃、2人死亡 容疑者射殺 「テロ

ワールド

米がウクライナにトマホーク供与なら「相応に対応」=

ワールド

ハマスのガザ和平案受け入れ期限、トランプ氏が「一線

ワールド

プーチン大統領「NATO攻撃の意図ない」、欧州が挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭蓋骨から何が分かった?
  • 4
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中