最新記事

サウジアラビア

皇太子が電撃交代、サウジ王室の「クーデター」舞台裏

2017年7月25日(火)10時57分

7月19日、先月サウジアラビアの王室で起きた「宮廷革命」によって、王位継承第1位の皇太子だったムハンマド・ビン・ナエフ氏は、国王の息子ムハンマド・ビン・サルマン氏(写真)に皇太子の座を譲り渡した。その秘められた内幕とは。パリで2015年撮影(2017年 ロイター/Charles Platiau)

過去20年にわたって、サウジアラビアの安全保障・治安部門トップの座にあり、王位継承第1位の皇太子だったムハンマド・ビン・ナエフ氏が先月20日、メッカにある王宮4階に呼ばれ、サルマン国王に謁見した。

「MbN」という通称で呼ばれるナエフ氏に近い関係筋によれば、このとき81歳の国王は、おいのナエフ氏に対し、自分のお気に入りの息子、ムハンマド・ビン・サルマン氏に役職を譲るよう命じたという。

鎮痛剤の乱用によって判断力が落ちている、というのが解任の理由だった。

「国王がナエフ氏との謁見場所に来て、室内には彼ら2人だけが残った。国王はナエフ氏に『退任を希望する。薬物中毒が判断力に危険な影響を及ぼしており、その治療を勧められても聞き入れなかった』と告げた」とこの関係筋は語る。

事実上の「宮廷革命」を引き起こした異例の謁見に関する詳細が新たに伝えられたことで、世界最大の石油輸出国のリーダーシップを再構築しつつある事件の真相が明らかになってきた。

ロイターはナエフ氏の薬物中毒について独自に確認はできなかった。

サウジアラビア高官は、こうした説明は「ナンセンスであると同時に、(まったく)根拠がなく真実ではない」と述べている。

「ここで述べられている筋書きは、ハリウッド並みの完全なファンタジーだ」。この高官はロイターに対する声明でそう語り、ナエフ氏の薬物乱用疑惑については言及しなかった。

同高官によれば、ナエフ氏は国益のために解任されたのであり、どんな「圧力や屈辱」も味わっていないという。解任の理由は「機密事項」だと語った。

だが、状況に詳しい情報提供者によれば、国王は息子を王位継承者に昇格させることを決意し、ナエフ氏を排除するために彼の薬物問題を口実として利用したのだという。

3人の王室関係者、王族であるサウド家と関係のある4人のアラブ人当局者、そして中東地域における複数の外交関係者によれば、ナエフ氏は解任を命じられて驚いていたという。

「ナエフ氏にとっては、大きなショックだった」とナエフ氏に近いサウジ政界関係者は語る。「これは政変だ。彼は不意を突かれた」

情報提供者らによれば、ナエフ氏は衝動的な言動の多いムハンマド・ビン・サルマン氏に地位を奪われるとは予想もしていなかったという。ナエフ氏はサルマン氏について、イエメン紛争への対応や公務員の給与削減など多くの政策的過ちを犯してきたと考えていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

鈴木財務相「財政圧迫する可能性」、市場動向注視と日

ワールド

UCLAの親パレスチナ派襲撃事件で初の逮捕者、18

ワールド

パプアニューギニアで大規模な地すべり、300人以上

ワールド

米、ウクライナに2.75億ドル追加軍事支援 「ハイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 3

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシア装甲車2台...同時に地雷を踏んだ瞬間をウクライナが公開

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    なぜ? 大胆なマタニティルックを次々披露するヘイリ…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリ…

  • 8

    これ以上の「動員」は無理か...プーチン大統領、「現…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中