最新記事

アメリカ政治

米政権幹部に襲いかかる、トランプの執拗な怒りの病

2017年6月8日(木)19時11分
クリス・リオッタ

大統領執務室でもいつ怒りの対象になるかわからない(写真は今年1月28日) Jonathan Ernst-REUTERS

<入国制限令もメキシコとの壁も公約を何一つ実行できず、ロシア疑惑の捜査も止められない。トランプに言わせればすべては部下が無能なせい。今ではいつ誰に怒りの矛先が向くか予測もつかず、最側近のセッションズ司法長官が辞任しようとするほど事態は悪化している>

ジェフ・セッションズ米司法長官が、ドナルド・トランプ米大統領の執拗な怒りに耐えきれず辞任を申し出たというニュースは、アメリカ中を驚かせた。セッションズは、トランプが昨年の大統領選の泡沫候補に過ぎなかったころからいち早く支持を表明し、ここまで支えてきた側近中の側近だからだ。

セッションズが抜ければ政権が大打撃を受けるのは必至。トランプは辞任を認めず、セッションズは残留することになったが、これで一件落着とはいかない。

ことの発端は今年3月。セッションズは、大統領選中に駐米ロシア大使と接触していた問題で批判を浴び、記者会見を開いてFBIが進めるロシア疑惑の捜査に今後いっさいタッチしないと宣言した。

報道によれば、トランプはこの会見について直前まで何も聞かされていなかった。そのため、ロシア疑惑の捜査で自分を守ってくれるはずのセッションズがその役割を放棄したことに激怒し、捜査から手を引くのは「弱腰」だと非難した。

その後、強面で鳴らす特別検察官が任命されたことで捜査が拡大されたのもセッションズが手を引いたせいだとして、トランプはここ数カ月、セッションズに対し「たびたび怒りを爆発させてきた」という。

直接怒るときはツイートより辛辣

標的にされたのはセッションズだけではない。ツイッターで日々怒りをぶちまけるトランプだが、政権スタッフに直接浴びせる痛罵は「ツイート以上に辛辣」だと、複数のホワイトハウス筋の話として、ニューヨーク・タイムズが伝えている。

【参考記事】トランプ政権のスタッフが転職先を探し始めた

ロナルド・レーガンとジョージ・ブッシュ(父)の大統領時代にホワイトハウスの弁護士を務めたデービッド・リブキンによると、トランプは「思いどおりの結果が出ないと不機嫌になり」、部下に当たり散らすタイプ。イスラム教徒が多数を占める国からの入国制限についても、新たに出した修正版の大統領令がまたもや執行差し止めになったため、「トランプは自分の法律家たちが無能だと判断した。これはビジネスマンの発想だ」と、リブキンはみる。

大統領補佐官も犠牲に

トランプは公約をいっこうに実現できないことにいら立っており、政権内ではいつ、誰が怒りの対象になるか予測がつかない状況だ。最近では、H・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)が生け贄になった。トランプが韓国にTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備の費用を全額負担させると脅した一件で、マクマスターが韓国側の不信感をなだめようとしたことが逆鱗に触れたのだ。トランプは「韓国にちゃんと払わせるために(高値を)吹っかけたのに、じゃまをするな」と、電話でマクマスターに「わめき散らした」と、ブルームバーグが伝えている。

【参考記事】パリ協定離脱に喝采するトランプの「真の支持基盤」は誰か

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中