最新記事

フランス

もう1人の極右ルペン「政界引退」は本当か?

2017年5月12日(金)22時11分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ジャンマリ・ルペンの孫でマリーヌ・ルペンの姪、マリオン・マレシャルルペン(27) Jean-Paul Pelissier-REUTERS

<国民戦線のマリーヌ・ルペン候補が大統領選に敗れた2日後、もう1人のルペンが政治活動休止を公表した>

フランスの極右政党・国民戦線は今週、2つの大きな痛手を負った。

まず5月7日、大統領選の決選投票でマリーヌ・ルペン候補(48)がエマニュエル・マクロン前経済相に敗れた。2日後の9日、同党の国民議会(下院)議員であるマリオン・マレシャルルペン(27)が政治活動休止を公表した。

ル・パリジャン紙によれば、マレシャルルペンは「生活を変える」ために「個人的な選択」をしたのだとか。シングルマザーであり、幼い娘と過ごす時間を増やしたいし、民間企業での経験も積んでみたい――。

マレシャルルペンは2012年、22歳で当選し、最年少の下院議員となった。まだ1期目だが、6月の下院選には出馬しないことになる。そんな一年生議員の"引退"が、なぜ2つ目の大きな痛手なのか。

マリオン・マレシャルルペンは、国民戦線の創設者であるジャンマリ・ルペン(88)の孫であり、マリーヌ・ルペンの姪。党内では将来を担う逸材、マリーヌに代わる次の大統領候補と期待されていたからだ。

報道によれば、ジャンマリ自身も大統領選前、孫のマリオンが候補者ならよかったと発言しており、娘マリーヌの敗北について「恥ずべき失敗」とまで述べている。

とはいえ、マリーヌは今回、約1064万もの票を得ており、2002年にジャンマリが大統領選で得た約552万票から倍増させている(いずれも決選投票の得票数)。敗れたとはいえ、極右政党としては歴史的な躍進だ。

それもこれも、マリーヌが父親を党から追放し、人種差別的な言動を控えるなど「穏健化」路線を進めてきたことが奏功したとされる。

【参考記事】マクロン新大統領の茨の道-ルペン落選は欧州ポピュリズムの「終わりの始まり」か?
【参考記事】フランス大統領選決選投票、ルペンは「手ごわく危険な対抗馬」

その路線に反発してきたのがマリオンだ。不法移民の子供に学校給食を提供させない、ハラールフード(イスラム教の戒律にのっとって処理された食品)は違法にする、合法移民の数を年間1万人まで減らす......など、反移民の過激な主張を繰り返してきた。2人とも不仲は否定しているが、党内抗争はあったとみられている。

ある意味で、3代目のルペンであるマリアンこそが、ジャンマリの真の後継者だ。実際、地盤であるフランス南部を中心に、旧来の国民戦線支持者の間では非常に人気が高い。

そんな人材を失って、支持者たちはさぞ落胆していることだろう。

だが、むしろ最適なタイミングでの賢明な行動だとの見方を、フランスの英語ニュース放送フランス24は伝えている。フランス国際関係戦略研究所(IRIS)のジャンイブ・カミュの見立てによれば、マリアンは党の実権を握るにはいったん下野する必要があることを理解しており、政界を引退するとは言っていない。また、もし下院選で国民戦線が大敗しても、マリアンは責任を免れ、無傷のままでいられるというわけだ。

党首マリーヌが大統領選での敗北からどれだけ党勢を取り戻せるかはわからない。ただ、ジャンマリはル・パリジャン紙の取材に、人気の高いマリアン不在が痛手となり、下院選では期待ほど議席を積み上げられないだろうと答えている。

果たして、国民戦線は失速するのか。そして、マリオン・マレシャルルペンはいずれ政界復帰するのか。下院選は6月の11日と18日に行われる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中