最新記事

イラク

モスル奪還作戦、死体安置所からあふれ返る死体

2017年4月14日(金)17時00分
カラム・パトン

イラク・カイヤラの病院に連れてこられた患者 Suhaib Salem-REUTERS

<昨年10月にテロ組織ISISからの奪還作戦が始まったモスル近郊の死体安置所では、保管場所が不足した状態で続々と死体が運び込まれ、多数の犠牲者が出る現状を物語っている>

テロ組織ISIS(自称イスラム国)のイラク最後の拠点となった北部モスルから、南へ約56キロの位置にあるカイヤラ地区。死体安置所には収容しきれない死体があふれ、有志連合とイラク軍が奪還作戦を開始してから半年で、どれほど多くの命が犠牲になったかを物語る。

ロイター通信は、カイヤラ病院の死体安置所で、次々に運び込まれる死体を保管するための棚や冷蔵施設が不足している現状を伝えた。20人以上の死体が袋に詰められ毛布をかけられた状態で床に置かれ、手足が切断された死体の一部は小袋に入れられていた。

死体安置所の責任者を務める医師のモダール・アロマリーは、これまでに受け入れた死体の数には触れなかった。だが奪還作戦で最多の死傷者が出た日には、21人の死体が運び込まれたという。

女性のための国際NGO組織、国際女性健康連盟(WAHA)が運営する同病院で働く職員らは、とにかく今ある設備や備品でやり繰りするしかない。冷蔵施設への電力供給にも、独自に購入したケーブルを代用する。医師のマンスール・マールーフは、イラク保健省から死体を重ねて保管するための追加の棚が到着するのを待ちわびていると言った。

4000人の死体が手つかずのまま

モスルの奪還作戦が終了すれば、ISIS戦闘員の大量の死体が見つかって、更に多くの死体を引き受ける事態になると、病院側は覚悟している。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によれば、モスル西部から8キロの距離にあるカフサと呼ばれる地域では、民間人を含めた4000人規模の死体が手つかずのままだ。

現在はこの病院にも死亡証明書を出す権限が与えられている。つい最近までは、モスル西部とISISの支配地域で見つかった死体については、別の死体安置所しか証明書の発行を許可されていなかった。しかも以前の規制では、モスル近郊の死体は200キロ以上離れた南方のティクリートか、80キロ東方のアルビルまで車で運ばざるを得なかった。

カイヤラ病院のある男性職員は、ISISが「Emir of Death」と称するモスル東部の死体安置所で働いていた過去を明かした。1日で72人の戦闘員の死体が収容された日もあり、奪還作戦が始まった昨年10月から3カ月間で扱われた死体数は2000人分に上ると証言した。

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中