最新記事

朝鮮半島

韓国、エリート脱北者への報奨金4倍増の背景

2017年3月7日(火)15時46分
エレノア・ロス

平壌の幹部養成校、万景大革命学院を訪れた金正恩 KCNA/REUTERS

<金正恩政権になって、北朝鮮は潜入するのも脱北するのもますます難しくなっている。北の機密情報を手に入れるために韓国が打った一手>

韓国統一省は3月5日、北朝鮮からの脱北者に対して支給している報奨金を4倍に増額すると発表した。北朝鮮の機密情報を持つ脱北者に対してこれまで支払われていた報奨金は21万7000ドルだった。その額を86万ドルまで引き上げて、北朝鮮の機密情報をさらに入手するのが狙いだ。

脱北者に対する報奨金の額は、これまで20年間、変わっていなかった。英ガーディアン紙によれば、韓国の聯合ニュースは匿名の政府関係者の話として次のように報じている。「エリート層が脱北をためらう大きな理由の1つに、脱北後に韓国で暮らしていけるかという不安がある」

【参考記事】マレーシア、北朝鮮が双方の外交官の出国禁止 大使館閉鎖か

報奨金は、主に北朝鮮のエリート層に対して韓国への脱北を促すための策だ。ガーディアン紙によれば、報奨金の額は情報の質によって決まる。

「誤解しないように。大半の脱北者は報奨金などもらえない。もらえるのは、韓国にとって価値がある機密情報を持った北朝鮮エリート層だけだ」。英リーズ大学の名誉リサーチフェローである北朝鮮専門家アイダン・フォスター・カーターは本誌にそう語った。「北朝鮮に潜入するのがあまりにも難しいため、韓国は北朝鮮の人々を脱北させようとしている。軍備強国になりつつある北朝鮮に対抗できる手段はそれぐらいだ」

【参考記事】金正男殺害を中国はどう受け止めたか――中国政府関係者を直撃取材

脱北のリスク高まる

ロンドン大学キングスカレッジの国際関係講師レイモン・パチェコ・パルドはこう話す。「(報奨金を増額するのは)金正恩政権になって父の金正日や祖父の金日成の時代よりも締め付けが厳しくなり、脱北者が減ったからだと私は見ている。機密情報を漏らした人間と、北朝鮮に残してくる家族は、より大きなリスクを抱えているということだ」

脱北するのは難しい。多くの人が国境を越えて中国へと渡るものの、彼らは難民としてではなく違法な経済移民として扱われ、捕まれば北朝鮮に強制送還されてしまう。国に戻れば容赦ない処罰を受ける。強制収容所へ送られて重労働を科されるか、処刑されることもある。

【参考記事】北朝鮮独裁者、「身内殺し」の系譜

1953年の南北分断以降、3万人が脱北した。年に3~4人の割合だ。金正日政権のときに脱北者は増加したが、今の金正恩政権になってからは減っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中