最新記事

インタビュー

高松も東京も......まちの可能性は広がっていく

[伊藤香織]東京理科大学 教授、シビックプライド研究会 代表

2017年2月24日(金)17時13分
WORKSIGHT

Photo: WORKSIGHT

<シビックプライドがこれからの地域運営では重要なファクターになると、東京理科大学の伊藤香織教授。行政に一方的に苦情を言うのではなく、課題を前にして自分なら何ができるか、市民1人ひとりが想像力を持つべきだという>

※インタビュー前編:日本の地域再生を促すシビックプライドとは何か

シビックプライドは市民の誇りを持って地域を良くしていこうとする当事者意識や自負心であり、これからの自治体運営では重要なファクターとなるでしょう。

まちのことは行政に任せっきりではなく、自分もまちを作っている一員なのだと想像してみましょう。地域の課題を指摘して解決を望む声をあげることはもちろん重要ですが、行政に一方的に苦情を言うだけの人が増えると、行政は萎縮してますます創造性が失われていきます。

自治体の財政状況が厳しさを増す中で、課題を前にして自分なら何ができるか、解決するためには何が必要かを考える想像力を市民1人ひとりが持つことが、まちを動かす力になっていくでしょう。自分の生活が良くなることとまちが良くなることは実は一緒。それを全ての住民が考えていけるようになるためにシビックプライドは大きな役割を果たすと思います。

住みたいまちの妄想から始まった「まちぐるみ旅館」

面白い事例に、香川県高松市の「仏生山(ぶっしょうざん)温泉・まちぐるみ旅館」*があります。仏生山温泉の設計・運営を手がける建築家の岡昇平さんがこのことを言い始めた動機は、自分が楽しく生活したいからだそうです。

岡さんはまち全体を旅館に見立てる「まちぐるみ旅館」構想を掲げています。お風呂は仏生山温泉に入り、食事は近所の食堂やカフェでいただき、寝泊りは温泉近くの宿泊スペースを利用するという具合です。それをずっと言い続けていたら、移住してきた人が雑貨屋を始めたり、洋服屋さんがおいしいパンを焼き始めたりして、妄想が実体化してきたと(笑)。

岡さんの場合、自分がそういうまちに住みたいという願望が原動力です。しかし、行政に「商店街振興をしてください」と要望するのとは違う方法を採りました。自分なりのビジョンを示すことで、結果的に地域を動かしていける仲間を増やしていったのです。

岡さんは構想力に優れた建築家なのでこういうことができました。誰もが同じやり方はできないかもしれませんが、それぞれが自分なりの方法でやってみれば良いのです。居心地がよくないなら、自分なら何ができるかを考えてみる。毎日道を掃き掃除するとか、お店の前に椅子を出してみるとか、ささやかなことから始めればいいですし、自分の仕事や趣味を通して得意なことから考えてみればいいのです。シビックプライドを持っていると、そのアイデアが湧いてきやすいし、それは自分の誇りとして返ってくるのだと思います。

【参考記事】生活ありきの仕事環境がクリエイティブ・カルチャーを生む

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル、ガザ停戦・人質合意を承認=首相府

ビジネス

ラリー・リンゼー元FRB理事、次期議長候補を辞退=

ワールド

金正恩氏、北朝鮮の国際的地位を強調 党創建記念式典

ワールド

再送-インタビュー:日銀の追加利上げ慎重に、高市氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 3
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 4
    50代女性の睡眠時間を奪うのは高校生の子どもの弁当…
  • 5
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 6
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 7
    史上最大級の航空ミステリー、太平洋上で消息を絶っ…
  • 8
    米、ガザ戦争などの財政負担が300億ドルを突破──突出…
  • 9
    底知れぬエジプトの「可能性」を日本が引き出す理由─…
  • 10
    【クイズ】イタリアではない?...世界で最も「ニンニ…
  • 1
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 8
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中