最新記事

貧困

教育で貧困の連鎖を断ち切る、カンボジア出稼ぎ家庭の子ども支援

2017年2月15日(水)16時40分
浜田敬子(AERA前編集長)

スレイ・ニアはNGOなどが両親を説得したことでカンボジアに残って学校を続けられた Kimlong Meng/Plan International

<カンボジアの貧困地域では、違法な出稼ぎでタイに向かう両親に連れて行かれ、学校に行かれなかった子どもたちが大勢いる。支援NGOの活動を取材した筆者による現地レポート>

世界中から観光客が集まるカンボジアのシェムリアップ。アンコール・ワットなど一連の世界遺産群を目指して欧米だけでなく、中国や韓国からの観光客も近年急増している。街中には一杯3ドル50セントと日本のスターバックスよりも高いコーヒーを出すカフェや、アジアの高級リゾートを思わせるレストランもある。国家公務員の平均月収が約5万円のこの国で、これらの場所に一生足を踏み入れることがない地元の人も多いだろう。

プラン・インターナショナル(以下、プラン)というイギリスに本部を置く国際NGOの活動を取材するために、カンボジアのこの地を訪れたのは先月下旬。プランは「子どもの権利を推進し、貧困や差別のない社会を実現する」ことを目指すNGOだ。筆者がこのNGOの活動に興味を持ったのは「Because I am a Girl」というキャンペーン広告だった。「13歳で結婚。14歳で出産。恋はまだ知らない」というコピーと、写っていた10代前半であろう少女の写真。「女の子だから」というだけで教育も受けられず不当な扱いを受ける少女たちが世界には、特に途上国にはまだまだいる。

シェムリアップから車で約2時間。途中舗装された道路が終わると、あとは大きな穴だらけの土の道が延々続く。洪水にあって道路が削られても補修の予算すらない。タイ国境まで約70~80キロというアンコールチュム郡では、約8割の住民がタイに出稼ぎに向かう。

この地域では、崩れそうなバラックのような家の間に突然二階建ての瀟洒な家が現れる。出稼ぎに行って帰ってきた人たちが建てた家だという。家だけでない。バイクや家電製品、スマートフォンなどで歴然とした「収入格差」を目の当たりにした村の人々も、また後を追いかけるようにタイに出稼ぎに出て行く。

【参考記事】メコン川を襲う世界最悪の水危機

cambodia170215-02.jpg

アンコールチュム郡では多い時は8割もの住民がタイへ出稼ぎに行く Kimlong Meng/Plan International

出稼ぎ先で学校に行かれない

こうした村で問題になっているのが、出稼ぎ家族の子どもたちの教育だ。プランのカンボジア統括事務所の広報担当モン・チャンタラ・ソレイユは、こう話している。

「カンボジアに仕事がないために政府も出稼ぎを奨励しているが、違法なブローカーに法外な手数料を取られている場合も多い。出稼ぎ先のタイでは子どもが学校に通えず、読み書きすらできないまま育つ。こうした出稼ぎ家族の子どものリスクを政府は理解していない」

プランでは地元の協力団体と連携しながら、こうした家族に対してまずパスポートを取得し、正規ルートでの出稼ぎを働きかけると同時に、子どもをカンボジアに残していくよう説得する。地元スタッフは祖父母に預けられた子どもたちが学校にきちんと通えるように村のリーダーに働きかけ、一緒に見守っていく。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ワールド

中国製EVの氾濫阻止へ、欧州委員長が措置必要と表明

ワールド

ジョージア、デモ主催者を非難 「暴力で権力奪取画策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中