最新記事

中国

「中国がネット検閲回避のVPNを全面禁止」は誤報です

2017年1月27日(金)17時15分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

BeeBright-iStock.

<もう中国でグーグルやフェイスブックを使えなくなる!? 「壁越え」の手法として使われてきたVPNの規制を強化するというニュースに中国内外が騒然となったが、大騒ぎするほどのことではない>

「中国がネット規制回避のVPN全面禁止へ」――1月23日、日本のウェブメディアが配信したニュースがちょっとした話題となった。

 VPNとは「バーチャル・プライベート・ネットワーク」の略称で、暗号化技術を利用することで、インターネット回線を使用しつつも専用線並みの安全性を担保したプライベートネットワークを構築する技術だ。中国ではいわゆる「壁越え」、すなわちネット検閲回避の手法として使われてきた。

 中国人のみならず、在中日本人やあるいは一部の旅行者にとっても必要不可欠な存在のため、"全面禁止"という言葉に驚いた人が少なくないようだ。ツイッターを見ると、「これでもう中国には当面行けないな」などの感想をつぶやいている人もいる。VPNが使えず、中国滞在中にグーグルやフェイスブックなどのウェブサービスが使えないとなれば、仕事にならないと感じる人も少なくないだろう。

 しかし、"全面禁止"という言葉は誤訳に近い見出しだ。正確には「無認可のVPNの取り締まり強化」が正しい。騒ぎの発端となった「工業情報化部によるインターネット接続サービス市場の整頓・規範化に関する通知」を見てみよう。

 通知の目的は「無認可経営、範囲を超えた経営、"又貸し"などの違法行為の摘発」とされている。VPNに関しては「電信当局の認可を得ず、独自に専用線(VPNを含む)を構築、または借用するなどの国際経営活動を実施してはならない」「(VPNを含む国際専用線のレンタルに関しては)電信企業はユーザーに対して社内業務にのみ使用できることを明確に説明すること」と定められている。

 範囲を超えた経営とは、認可時に定められた地域、あるいは業務を超えたサービスを行うこと。"又貸し"とは、通信企業から専用線またはVPNを借りたユーザーが、さらに別のユーザーにVPNサービスを提供することなどを指す。

 逆に言うならば、「ちゃんと認可を取って認可取得時の申請内容に沿って使っていればいいですよ」という話なのだ。中国に拠点を持つビジネスユースのVPNは大半が認可を取っているため影響は少ない。問題は個人向けだ。中国に拠点を持つ個人向けVPNは多くが無認可のため規制対象となる。

"全面禁止"とはかなり印象が違うのではないだろうか。もっとも、誤解しているのは日本メディアだけではない。

 独ラジオ局ドイチェ・ヴェレは「中国、正式にVPNを"清算"」というタイトルで報じているし、中国人ネットユーザーの感想を紹介している日本語ブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」では「まーたウチの国の変則的ネット鎖国政策が進行したのか。最後は何も出来なくなって何も遊べなくなってしまうな!」「ネットの鎖国で清の時代に戻りそうだな!」など、全力で誤解する中国人ネットユーザーの声を紹介している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米シティ、ロシア部門売却を取締役会が承認 損失12

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席と首脳会談

ワールド

マレーシア野党連合、ヤシン元首相がトップ辞任へ

ビジネス

東京株式市場・大引け=続落、5万円台維持 年末株価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中