最新記事

サイエンス

人の排泄物から「バイオ原油」を生成する技術、米国立研が開発、実用化へ

2016年12月12日(月)14時00分
高森郁哉

Water Environment & Reuse Foundation

 米エネルギー省傘下のパシフィック・ノースウエスト国立研究所(PNNL)は、人間の排泄物を効率よくバイオ燃料に変換する技術の開発に成功した。同研究所のサイトで11月に公表され、米メディア「アルス・テクニカ」などが報じている

石油ができる仕組みを再現

 PNNLによると、水熱液化という技術を用いることで、人間の排泄物のような有機物をより単純な化合物に分解できる。「水熱液化は、地球が何百万年もかけて、高圧と高温で原油を作る地質学的な状態を模倣し、数分で再現する」と、同研究所は説明している。

 具体的には、下水汚泥に3000重量ポンド毎平方インチ(約210重量kg毎平方cm、タイヤの空気圧のほぼ100倍)の圧力をかけたあと、セ氏約350度で稼働する反応装置に投入。高圧と高温の作用により、炭素と脂質を含む「バイオ原油」に転換される。このバイオ原油を精製することで、ガソリン、ディーゼル、ジェット燃料等の代替燃料になるという。

【参考記事】CO2からエタノールを効率良く生成する方法、偶然発見される

実用化への道筋

 PNNLは、米ユタ州に本拠を置くジェニフュエル社へこの水熱液化技術をライセンス供与する契約を締結。同社がカナダ・ブリティッシュコロンビア州メトロバンクーバー行政区と協力し、2018年に実証プラントを建設する計画だという。

 PNNLが外部組織に依頼したアセスメントでは、この技術により、下水汚泥に含まれる炭素が約60%の高効率でバイオ原油に転換されることがわかった。全米の下水処理場が1日あたり340億ガロン(約1300億リットル)の下水を処理しているので、これをすべて同技術で転換すると、1年に最大約3000万バレル(約48億リットル)の石油に相当する燃料を作り出せるという。1人あたりに換算すると、1年で2〜3ガロン(約8〜11リットル)のバイオ原油を生成できる、とPNNLは試算している。

 PNNLは、この技術が実用化されれば、有用な燃料を生産することに加えて、排泄物を下水管で輸送して処分することも不要になるので、地方自治体に大きなコスト節減をもたらす、と利点をアピールしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

焦点:税収増も給付財源得られず、頼みは「土台増」 

ワールド

米、対外援助組織の事業を正式停止

ビジネス

印自動車大手3社、6月販売台数は軒並み減少 都市部

ワールド

米DOGE、SEC政策に介入の動き 規則緩和へ圧力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中