最新記事

エネルギー

CO2からエタノールを効率良く生成する方法、偶然発見される

2016年10月20日(木)16時40分
高森郁哉

Oak Ridge National Laboratory-YouTube

 米オークリッジ国立研究所の研究者らが、二酸化炭素(CO2)からエタノールを生成する新たな方法を発見したと発表した。入手しやすい安価な物質を使って、常温の環境で化学反応を起こすことができ、高い純度のエタノールが得られるという。

偶然の発見

 同研究所のアダム・ロンディノン博士を筆頭著者とする論文が欧州の化学総合誌『ChemistrySelect』のオンライン版で公開され、オークリッジ研のサイトにもニュースリリースが掲載された。

 ロンディノン博士によると、研究チームは当初、炭素、銅、窒素でできた触媒に電圧をかけて、燃焼プロセスを逆転させる複雑な化学反応を起こそうとしていたという。「私たちは、燃焼の廃棄物である二酸化炭素を選び、燃焼反応を逆向きに進めて高度に分離させることで、有用な燃料を得ようとしていた」と同博士。

 ところが、ナノ技術を応用した触媒の働きにより、二酸化炭素の水溶液から、純度63%のエタノールが生成されたという。ロンディノン博士は「エタノールは意外だった。1つの触媒で二酸化炭素から直接エタノールを得ることは極めて難しいから」と振り返る。

カギは触媒のナノ構造

 この化学反応を可能にしたのは、ナノ技術を応用して組成された触媒だ。触媒の表面には銅のナノ粒子が並び、炭素のナノ突起が埋め込まれている。「これは例えるなら、50ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)の避雷針のようなものだ。この突起の先端で、電気化学反応を集中的に起こす」と、同博士は説明する。

carbon_nanospikes.jpg

触媒表面に配置された銅のナノ粒子(球状)と炭素のナノ突起。

 こうしたナノ技術のアプローチにより、プラチナのような高価で希少な物質を触媒に使わずに済む。入手しやすい安価な物質でエタノールを生成できることに加え、室温の環境で化学反応を起こせることもメリットだ。

温暖化とエネルギー不足を救う一石二鳥の解決策に?

 二酸化炭素からエタノールを生成する技術が実用化されれば、まず当然、温室効果をもたらす二酸化炭素を減らし、地球温暖化に歯止めをかけるはたらきが期待できる。生成されるエタノールは、すでに各国でガソリンに混合されて利用されており、たとえばブラジルでは25〜100%、米国やタイ、欧州の数カ国では最大85%のエタノール混合ガソリンが利用されている状況だ(環境省の資料より)。

【参考記事】温暖化対策に希望! 二酸化炭素を岩に変えて閉じ込める

 さらにロンディノン博士は、液体として貯蔵できるエタノールの特性を生かし、太陽光発電や風力発電のような電力供給量の安定しない発電方法と組み合わせ、補完的なエネルギー源になることに期待を寄せる。「予備の電力が必要になったときの発電燃料として、エタノールを貯蔵しておけば、再生可能エネルギー発電から断続的に供給される送電網の電力バランスをとるのに役立つだろう」と、同博士はコメントしている。

 

 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

一部の関税合意は数週間以内、中国とは協議していない

ビジネス

米キャタピラー第1四半期、収益が予想下回る 関税影

ビジネス

セブン&アイ、クシュタールと秘密保持契約を締結 資

ワールド

米・ウクライナ、鉱物資源協定に署名 復興投資基金設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中