最新記事

フランス

セーヌ川沿いで始まった「車のない町」への挑戦

2016年10月5日(水)10時50分
ヘンリー・グラバー

Charles Platiau-REUTERS

<パリの中心部を走る主要道路を恒久的な歩行者天国に変える計画が進行中>(写真:セーヌ川沿いの道路を市民の憩いの場に変えた「パリ海岸」)

 パリのセーヌ川右岸を走る自動車道路は、夏になると一部で車の通行が禁止され、市民の憩いの場へと姿を変える。「パリ海岸」の呼び名のとおり、大量の砂が運び込まれて即席の砂浜が作られ、デッキチェアや食べ物の屋台が並び、人々はゲームに興じる。

 今年で15回目を迎えたパリ海岸は、バカンスで人が少なくなるシーズンを使って、街の真ん中を走る自動車道路を封鎖した場合の影響を調べる一種の実験ともなっていた。

 今年は例年と異なり、この自動車道で9月以降も試験的に自動車の通行禁止が続けられている。建設から半世紀、ドライバーの目には必要不可欠な存在に映るこの道が、散歩やジョギング、サイクリングを楽しむ市民のための緑地帯となるのだ。

 パリのアンヌ・イダルゴ市長は市内交通に及ぼす悪影響に対処した上で、半年間の試験期間終了後もこの道路における自動車の通行禁止を続けたい考えだ。セーヌ左岸の道路も2013年に歩行者専用となった。

【参考記事】自動運転車の実用化はシンガポールにお任せ

 これはパリ中心部の車の通行量を減らすという野心的な計画の一環でもある。パリ市民のうち自家用車を持たない人の割合は、01年の40%から現在では60%に増えている。

 このプロジェクトが大きな意味を持つ理由は、パリのように車なしの生活などあり得ないように思われた都市を、車なしの生活が当たり前の都市へと生まれ変わらせる橋渡しをしている点にある。

 同じようなことがロンドンでも起きている。ロンドン中心部のビジネス街では00~14年で車が半減し、自転車が3倍に増えた。00年には11対1だった自動車と自転車の台数比が14年には2対1に。この流れが今後も続くなら、19年までに自動車と自転車の比率が逆転するはずだ。

絵に描いた餅ではない

 結構な話だ。パリやロンドンは、他の町にはとうていまねできない画期的な政策に取り組む都市へと急速に進化しつつあるようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:4月CPI、利下げに向け物価情勢好転待つ

ワールド

米、ウクライナ防衛事業基金に20億ドル ロシア領内

ワールド

米、今秋に中国製「つながる車」規制案 商務長官「安

ワールド

ロ中など米選挙介入の動き活発化、情報機関が見解 A
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中