最新記事

IT産業

米国テック一強時代は終わり、米中二強時代が始まった

2016年9月6日(火)17時20分
蛯原 健(リブライトパートナーズ代表)

ユニコーン分析

 投資額が米中肉薄しているのだから、投資されたほうの未上場企業の評価額においてももちろん両者は肉薄する。

 時価総額1千億円を超えるいわゆるユニコーンの分布において中国の台頭は圧倒的である。CBインサイト によると本日この瞬間の世界ユニコーン生息数は171頭、その時価総額合計は$622B(62兆円)である。ちなみに私が前回計測した2015年10月時点ではそれぞれ、141社、$505Bであった。あれだけスタートアップ不況が来る、ユニコーン氷河期が来てコックローチ全盛期が来る、ダウンラウンドの嵐が吹きまくる、などと我々キャピタリストが喧伝したのにも関わらず、1年弱で社数ベース、金額ベースともに2割強も増えているのである。

 なぜか?

 中国である。中国は世界のユニコーンのうち、社数ベースで33社と19%を占めるが、金額ベースでは実に29%を占める。

ebihara2.png


 この数字も上記の資金調達状況を鑑みれば拮抗するのは時間の問題だろう。なお既にユニコーン上位10社中、米国5社に対して中国は4社ランクインしており、金額では実に44%を占めている

世界5大インターネット企業

 世界で最も大きなインターネット企業はAlphabetである。全産業を合わせても世界2位の時価総額を持つ。1位はご存知Apple。その収益のほとんどをiPhoneで稼いでいる。しかし差は小さく何度か逆転したし、いずれも50兆円台半ばで拮抗しており、3位の40兆円台マイクロソフトを大きく離している。

ebihara3.png


 私はこのAlphabetという会社の覇権は少なくとも向こう半世紀は確実に、あるいはそれ以上に長く盤石だと思っている。理由はデータの世界を一手に握っているからである。

 ではインターネット企業トップ5は他にどこか。 2位Amazon、3位Facebook、4位テンセント、5位アリババである。

 アリババはAmazonの、テンセントはFacebookのそれぞれ競合である。世界中でこの2大戦争が繰り広げられている。

 つまりは今日の世界のインターネット産業は、データの覇者Alphabetを頂点に、米中二大国の、コマースとソーシャルの覇者がそれぞれ4強を占めているのである。その5社に迫る10兆円台企業は世界に一社もいない、圧倒的なメジャー5である。

 さてアリババは、Eコマース事業では実は既にAmazonを抜いている。流通総額でも利益額でも抜いている。(Amazonの利益の半分以上はコマースではなくクラウドサーバAWSである。)その理由は中国一国のEコマース市場が強烈に巨大だからである。しかし無論それは早晩サチュレーションする。ゆえに母国外が大切であるがアリババはAmazonに比して国外がからきし弱い。ゆえに自社サービス進出ではなく投資によるカバレッジを推進している。東南アジアでLazadaを買収し一気にシェア1位を獲得し、インドでAmazon対抗のSnapdealに出資して提携した。コマース以外も含め多数かつ多額の投資を行って総合インターネット企業として生態系を中国内外に広げている。

 一方のテンセントは、アジアのチャットとソーシャルにおける覇者である。Whatsapp+Messenger=Facebookと、Wechat+QQ=テンセントがその分野の世界覇権を争っている。今のところMAU(月間ユーザ)で言えば21億人 vs 17億人とFBがやや優勢だがテンセントの成長率も高い。ARPUは圧倒的にFBが高いが、一方であのスーパーセルをもソフトバンクから買収したテンセントはモバイルゲームで巨額の収益を上げているし、コマースや決済等も強く、総合インターネット企業としての生態系の強さではFacebookに引けを取らない。

 以上の結果、AmazonとFacebookはいずれも時価総額で30兆台なかばで、中国テンセントとアリババは20兆円台なかばと、1.5倍前後の差までキャッチアップしている。中国2強の主戦場であるアジア各国の伸びしろを考えると、さらに差が縮まる可能性は大いにあろう。

 ただし、である。米国2強はR&D投資に巨額の予算を割いている。AI、VRなど長期で花咲く分野に対していずれも年間で数千億円レベル、日本一国の全VC投資額一年分の数倍の投資を毎年行っている。それに比べると中国2強はそこまで手が回っていない。(むしろ大差で中国3位のバイドゥや新興勢力のLeEco等がAIや自動運転者などへ積極投資をしているが。)中長期で完全に中国勢が米国勢に追いつき追い越すかは、ひとえにR&D投資にかかっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米当局、コムキャストに罰金150万ドル 23万人超

ビジネス

赤沢経産相、ラピダス「国策として全力で取り組む」

ビジネス

アックマン氏のパーシング、来年早々の上場準備=WS

ビジネス

米企業設備投資向け新規与信、10月は前年比5%超増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中