最新記事

LGBT

世界に広がるLGBT迫害戦争

2016年8月19日(金)16時20分
ジョシュ・ソール

Illustration by Vahram Muradyan

<性的少数者への差別解消に向かう世界の潮流とは裏腹に、ホモフォビア(同性愛者嫌悪)による暴力事件は頻発している>(イラスト:国連加盟の13カ国では同性間の性行為が違法とされ、死刑になる可能性もある。今年6月、米フロリダ州のLGBT向けナイトクラブで起きた銃乱射事件の犠牲者は49人)

 ここ数年、世界でLGBT(同性愛者などの性的少数者)の人権活動は大きな躍進を遂げてきた。そんななか、根強くはびこる偏見と憎悪を人々に突き付けたのが、先月中旬に米フロリダ州オーランドのLGBT向けナイトクラブで起きた銃乱射事件だ。49人を殺した犯人オマル・マティーンは、同性愛者を毛嫌いしていたとされる。

 差別解消に向けた世界の潮流とは裏腹に、今もLGBTを狙った殺人や暴行は各地で多発している。「(オーランドの事件は)世界に広がる深い憎しみのごく一部だ」と、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のチャールズ・ラドクリフは言う。

 FBIの統計によれば、ホモフォビア(同性愛者嫌悪)が生む暴力は、人種差別に起因する暴力に次いで多い。LGBTが全人口に占める割合は小さいにもかかわらずだ。しかも統計に表れる値は氷山の一角で、大半の事件は報告されない。

【参考記事】トランスジェンダーめぐる「トイレ法」、米政府と州が互いに訴訟へ

 LGBTを狙う残虐行為は昔から繰り返されてきた。98年には米ワイオミング州で同性愛を理由に激しい暴行を受けたマシュー・シェパードがフェンスに縛られた状態で発見され、後に死亡。12年にはチリの首都サンティアゴの公園で、同性愛者の青年ダニエル・サムディオ(24)が4人の男から暴行されて帰らぬ人となった。サムディオはタバコの火を押し付けられ、耳の一部を切断された上、ガラスの破片でナチスのかぎ十字を体に刻まれていたという。

 皮肉にも最近は、各地で高まる人権運動がこうした暴力をあおる1つの要因になっている。LGBTの権利向上を訴える国連のキャンペーン「フリー&イコール」によると、一部の国では法的権利は大幅に向上したものの、その反動でLGBTを狙う暴力が急増しているという。

 法律面での国家間格差も広がっている。チリでは、サムディオの事件を契機に改革の動きが加速。同性愛者への差別を禁じる法律が制定され、保守的な国柄にもかかわらず同性婚も合法化された。しかし一方で、いまだに同性間の性行為が違法とされ、死刑が適用される可能性のある国・地域は13もある。

 LGBTの戦いに終わりが見えるのはまだ当分先のようだ。

[2016年7月19日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア海軍副司令官が死亡、クルスク州でウクライナの

ワールド

インドネシア中銀、追加利下げ実施へ 景気支援=総裁

ビジネス

午前の日経平均は小幅続伸、米株高でも上値追い限定 

ビジネス

テスラ、6月の英販売台数は前年比12%増=調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中