最新記事

テロ対策

【ニーステロ】車が大量殺戮の凶器になるなら、人混みはどこも危ない

2016年7月16日(土)21時11分
マーク・ブリスキー(豪カーティン大学上級講師、専門は国家安全保障と国際関係論)

Eric Gaillard-REUTERS

<南フランスのニースで大型トラックが人混みに突入したテロがとりわけ不気味なのは、武器が爆弾や銃でなく、日常のどこにでもある自動車だったこと。そしてそれが、84人も殺害するほど効果的だったこと。このあまりにも簡単なテロが定着したら、防ぎようがあるのだろうか?>

 フランスがまたもテロ攻撃による惨劇に見舞われた。現場は南仏のリゾート地ニース。単独犯とみられる容疑者の男は、大型トラックを暴走させ、革命記念日を祝うフランス人や外国人観光客を次々にはねた。少なくとも84人以上が死亡、多数の負傷者が出た。日常の一部である「車」によって、これほど多数を殺傷するテロが実行できるということが明らかになった。

車を使ったテロの歴史

 ニースのテロでは容疑者の車内から銃や手投げ弾も見つかったが、犠牲者のほとんどは、殺意を持った運転により、高速で人混みに突っ込んでいったトラックにひかれて死亡した。

【参考記事】孤独なトラック・テロリストの暴走、職質警官が見逃す──イスラムと西洋の対立尖鋭化の恐れ

 車を使った大規模なテロには、長い歴史がある。1995年4月にアメリカのオクラホマシティーで168人が犠牲となった爆破テロでは、元死刑囚のティモシー・マクベイ(2001年死刑執行)が大量の爆発物を積んだトラックを爆破させた。7月3日には、イラクの首都バグダッドの繁華街で何者かが爆発物を積んだトラックを爆破させ、買い物客を含む200人以上が死亡、イラクで過去最悪規模のテロ事件となった。しかしこれらは、車を使った自爆テロ、あるいは爆弾テロだ。ニースでは車そのものが凶器になった。

【参考記事】仏ニースのテロ犠牲者に追悼の漫画、続々と

 気がかりなのは、誰にも身近な「車」が武器として悪用され、可能な限り多くの死傷者を出すというテロリストの目的が達成され、世界中に知れ渡ったことだ。

 もし今回の事件が、使える武器は何でも使って西欧諸国を攻撃するよう扇動したテロ組織ISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)の呼びかけに応じたテロだとしたら、今後、多くの人々が集まる場所での安全確保が大きな課題になる(ISISは、トラックを運転していた容疑者はISISの感化を受けた者だと発表した)。

 爆弾や銃さえ使わず、車のように身近なもので人々を襲う「ローテクのテロ」は、我々の脅威となるだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中