最新記事

EU離脱

英議員殺害で変わった? EU離脱をめぐる「憎悪の応酬」

2016年6月23日(木)19時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Toby Melville-REUTERS

<イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票の直前に発生した英下院議員殺害事件は、離脱派が優勢だった世論の趨勢に変化を起こした。しかし本当に変わらなければならないのは、互いに反対陣営への憎悪を煽った運動のあり方そのものだ>(写真は22日の追悼集会に船で向かうコックスの夫ブレンダンと息子)

 英労働党の女性下院議員ジョー・コックスの殺害事件は、EU離脱を問う国民投票が間近に迫った先週発生した。その前の週まで、世論調査では離脱派が優勢となり、調査によっては残留派に最大7ポイントの差を付けて上回っているものもあった。

 だが先週の事件以降、離脱派の勢いは減退し、今週20日には、ブックメーカー(賭け)市場の離脱派の勝率は事件前の40%から24%にまで下がっている。

【参考記事】弱者のために生き、憎悪に殺されたジョー・コックス

 事件によって変化したのは、こうした世論の趨勢だけではない。コックスを殺害した男が、離脱派・残留派どちらの陣営の言説から影響を受けたかは定かではないが、EU離脱をめぐるこの数カ月間のイギリス国内の論争は極めて苛烈で感情的だった。

brexit160623-02.jpg

22日にロンドンのトラファルガー広場で開かれたコックスの追悼集会に集まった人々 Toby Melville-REUTERS

 特に離脱派からは、大手投資銀行が残留に向けて世論操作を仕組んでいるという悪質な陰謀論も出た。テムズ川の船上では、離脱派の男性がこんなことを叫んでいた。「ヒトラーは毒ガスでやった! メルケルは書類でやるのさ!」

【参考記事】EU離脱ならイギリスも世界経済も一大事

 コックスの夫ブレンダンは事件を受けて声明を発表し、コックスは自分の死によってイギリスが分断されることは望んでいない、と呼び掛けた。

 EU離脱に関して例えどのような意見であろうとも、反対意見を持つ人々への憎悪を掻き立てる言説は控え、本来の「意見の戦い」を実現しなければならない時が来た。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡

ワールド

豪住宅価格、4月は過去最高 関税リスクで販売は減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中