最新記事

ピープル

軍功を水増ししていた『アメリカン・スナイパー』

2016年5月26日(木)18時00分
デービッド・フランシス

<イラクで160人を射殺したネイビーシールズの「英雄」クリス・カイルは嘘つきだった> 写真はブラッドリー・クーパー(2014年12月) Carlo Allegri -REUTERS

 ネイビーシールズ(米海軍特殊部隊)最強の狙撃手、クリス・カイルは現代アメリカの英雄だ。イラク戦争に従軍した10年間に160人の敵を殺したという彼の回顧録『アメリカン・スナイパー』は100万部以上売れ、クリント・イーストウッド監督の手で映画化もされた。ブラッドリー・クーパーがカイル役を演じた映画は大ヒット、戦争映画として過去最高の興行収入を稼ぎ出した。

 2013年、カイルが同じ帰還兵に撃ち殺されると、アメリカは大きな衝撃に包まれた。

【参考記事】『アメリカン・スナイパー』射殺事件の真相は

「何だかんだで」と、カイルは書く。「私はシールズでの武勲で銀星章2つと青銅星章5つを受勲した」

 しかし、それは嘘だった。

 米インターセプト誌によると、カイルは勲章の数を偽っていた。実際に獲得したのは銀星章が1つと青銅星章が3つだったという。同誌は匿名の海軍関係者の話を引用すると共に、情報公開法で入手した海軍の内部記録をウェブに公開している。

 記事によれば、カイルは著書の出版前に、国防総省の担当者から勲章の数が間違っていると指摘を受けていた。履歴書をに少し尾ひれをつけるのとはわけが違う。勲章の数や軍功について嘘をつくのは倫理にもとるだけでなく、軍事法および連邦法にも抵触する。

ニューオーリンズでは略奪犯を狙撃

 何より、カイルが嘘をついていたのは今回が初めてではなく、彼が語った彼の人生のどこまでが本当で、どこまでが嘘なのか、改めて疑問を投げかけられるだろう。

【参考記事】マイケル・ムーア「『アメリカン・スナイパー』は卑怯者」?

 カイルは、プロボクサー出身の元ミネソタ州知事ジェシー・ベンチュラがイラク戦争を批判し、シールズの2人や3人は「死んで当たり前」と侮辱したので殴った、と本に書いている。ベンチュラはカイルには会ったこともないとして名誉棄損で訴え、損害賠償180万ドルで勝訴した。

 車を盗もうとした2人を殺したというのも嘘。ハリケーン・カトリーナに襲われたニューオーリンズのフットボールスタジアムの屋根の上から、略奪者数十人を撃ったというのも嘘だった。

 幸いなことに、これらの例は1つも映画には採用されていない。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中