最新記事

マイクロロボット

豚の腸でできた折り紙マイクロロボットで、誤飲した電池を胃から取り出す

ボタン電池の誤飲の事故から子どもを守る

2016年5月16日(月)16時50分
山路達也

豚の腸ロボット 豚の腸で出来たマイクロロボットが、飲み込まれた電池を取り込んで、体外に排出する  Massachusetts Institute of Technology-YouTube

 ボタン電池の誤飲は、命に関わる重大事故だ。体内で電池が放電すると水酸化物が生成され、胃腸の壁にダメージを与える。時には、胃腸に穴を開けてしまい、人を死に至らしめることもある。飲み込まれた電池はできる限り速やかに体外へと排出する必要があるが、体に負担をかける外科手術なしで処置するにはどうすればよいか?

 MIT、シェフィールド大学、東京工業大学の研究チームが開発したのは、「誤飲した電池を回収するマイクロロボット」だ。

 マイクロロボット本体の素材は、なんと豚の腸。これに永久磁石が取り付けられた構造になっている。適当な素材を見つけるため、研究チームはチャイナタウンの市場を探し歩いたのだとか。

 このマイクロロボットはどのように使われるのだろう?
 マイクロロボットを折り紙のように畳んでカプセルに入れ患者に飲ませると、胃の中でカプセルが溶けてマイクロロボットが展開される。患者の体外で磁石を動かすと、マイクロロボットの磁石が反応して胃の中をイモムシのように動き回る。マイクロロボットの磁石は、電池を吸着するためにも使われるというわけだ。

giphy.gif

 研究チームは豚の胃を購入して、特性を解析。シリコンゴムを使って、同様のモデルを作成した。そして、レモンジュースと水を胃酸に見立てて実験を行い、マイクロロボットの磁石で電池を捉えることに成功した。

 研究チームを率いるMITのDaniela Rus教授は、長年「折り紙ロボット」を研究して、その可能性を探ってきた。2015年6月には、「全長1センチメートル、重さ1/3グラムの超小型折り紙ロボットを発表」。シート状になった本体を加熱すると、あらかじめ入れられていた折り目に従って折りたたまれる。外部から磁力を与えることで、本体にモーターや電池を搭載しなくても虫のように動き回り、モノを運搬できることを示していた。

 誤飲した電池の取り出しという具体的なアプリケーションを実現できたことで、医療分野でのマイクロロボットの活用にはずみがつきそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中