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日中関係

日中首脳会談開催に向けて――岸田外相と王毅外相および李克強首相との会談を読み解く

2016年5月2日(月)12時00分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 この言い回しはないだろうと受け止める日本人は少なくないと思う。中国のネットでも、さすがに「王毅外相、ちょっと威張り過ぎじゃないのか?」というコメントがあるほどだ。しかし圧倒的多数のユーザーは「王毅、いいぞ! 威勢があって、実に勇ましい!」とか「王部長(外交部長=外相)の話は実に精彩を放っている!」あるいは「日米は虚偽の国家だ。民主を旗頭にしながらアジアの安定を乱している!」などと、王毅外相に礼賛の声を送っているものが多い。

 王毅外相の高圧的態度は、こういった中国人民の目を意識したものであろうことは明白だ。王毅外相は駐日本国の中国大使にもなったことがあり、流暢な日本語を操る「親日派」だった。そういうイメージを払拭しなければならないという「すさまじい努力」が、彼の表情と言葉から滲み出ている。

 もう一つは、身分の低い王毅外相(中共中央政治協委員ではない)に高圧的な姿勢を取らせておいて、李克強首相自身は比較的おうようであるという姿勢を見せる中国の戦術と見ることもできる。

 さらに深く読めば、それは来るべき日中首脳会談における習近平国家主席の安倍首相に対する表情(笑顔の度合い、あるいは厳しい表情の度合い)を模索するためのものとも解釈できるのである。

 岸田外相は王毅外相に対して、「中日会談が長きにわたって途絶えているということは、望ましいことではない。ぜひ、より頻繁に往来できる関係に戻していきたい」と述べ、冷静だった。

 二人の外相間では南シナ海問題も話されたと思うが、中国では公表されていない。

 岸田外相も会談後、「日本の立場を述べた」と言うに留めている。北朝鮮問題では意見の一致を見たようだ。

割合に対等だった李克強首相との会談

 30日午後、岸田外相は中南海の紫光閣で李克強首相と会談した。その時の模様は、「中華人民共和国中央人民政府」が開設する「中国政府網」に書かれている。

 中央テレビ局CCTVでも30日午後7時(日本時間8時)のニュースで放映した。

 中国では党内序列の順番に沿ってその日の出来事を放映することになっているのだが、この日の習近平国家主席(党内序列ナンバー1)の大きなニュースがない。そこで29日に習主席が開催した中共中央政治局学習会における一帯一路の講話を最初に報道し、次に党内序列ナンバー2の李克強首相のニュースとして岸田外務大臣の顔が中国全国放送で一斉に報道した。

 李首相は王外相ほど高圧的でなく、割合に穏やかな表情で岸田外相と握手を交わした。岸田外相も王毅外相と会ったときは、「笑顔の日本の外相と厳しい表情の中国の外相」という対比が目立ち、その心地悪さで学習したのか、岸田外相が笑顔を控えたことが見て取れ、対等という印象を与えた。

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