最新記事

なぜ、いま「著作権」について考えなければならないのか?―ヨーロッパの現場から

2016年4月28日(木)20時00分
Rio Nishiyama

 ということでこの記事では、日本では語られない「著作権」の現状を、ヨーロッパ(EU)ではどうなっているのかに焦点を当てて語ってみたい。

 まず、ヨーロッパでなぜ著作権が問題になっているかを知るためには、EUについて知る必要がある。EUとは、簡単にいうとヨーロッパの国々が一つにまとまり、経済や政治の共同体を作っていこうという動きである。そうやってまとまることで、ヨーロッパの一国では敵わない中国やアメリカ、といった大国に対抗したいというのがEUの大元の狙いだ。昨今の金融危機や難民の大規模流入によってEUの共同体としてのあり方に疑問が呈されてはいるものの、EUは設立してから基本的には年々拡大し、またその影響力を増してきた。そして、経済共同体―単一市場をつくるために、人の流通の自由(シェンゲン協定)や関税撤廃、通貨統合(ユーロの導入)などを次々と達成してきた。

 その「単一市場達成」の動きの中で、EUが次に狙っているのが「デジタル単一市場」の完成だ。2015年に発足した新制欧州委員会(EUの政治機関のトップのひとつ)では、「ヒト・モノ・カネの移動の自由化の次は『情報の移動の自由化』である」と銘打ち、「デジタル単一市場の完成」を2020年までのEUの10個の最重要政策のひとつとして位置付けている。

「情報の移動の自由化」とは

 さて、「情報の移動の自由化」とはなにを指すのか? さまざまな事例が考えられるが、たとえばオンラインショッピングをEU域内ならどこでも同じようにできるようにすること、音楽や動画といったオンライン上のコンテンツにどこからでもアクセスできるようにすること、などが挙げられる。情報の移動の自由化とは、「規制を撤廃し、オンラインでのサービスをEU域内のどこからでも同じように受けられるようにすること」と言い換えられるかもしれない。

 ここで問題となってくるのが、冒頭で述べた「著作権」だ。いま、EUでは加盟国28カ国ごとに別々の著作権が採用されていて、ユーザーやオンラインサービス事業者は国が変わるごとに別々の著作権に従わなければならない。これが大きな混乱を呼んでいる。

 たとえば、サービス事業者が国ごとに著作権のライセンス契約を結ばなければならないために、あるコンテンツが特定の国では見られるのに別の国では見られない、通称「ジオブロッキング」と呼ばれる問題がある。日本でも、Youtubeなどにアクセスしようとしたときに「この動画はお住まいの地域ではご覧になることができません」という警告が出て、動画にアクセスできなかったりすることがある。ヨーロッパではこれは日常茶飯事の光景だ。ヨーロッパには物理的な国境はないので、日本で言うと、たとえば東京都から神奈川県に移動したらいきなり動画が見られなくなった、と考えるとわかりやすいかもしれない。

 また、もっと一般的な例では、友達同士でGIF動画や画像などを送りあったり、SNSにアップロードしたりするときに、そのコンテンツを作った人(著作者)、送った人、送られた人―がそれぞれ別の国に住んでいたりすることがままある。そしてそれぞれの国の著作権法はバラバラなのだ。しかも、EUにはヒトの移動の自由の原則があるので、住んでいる場所は簡単に変わりうる。こうなると普通のユーザーにとっては、オンライン上で使いたいコンテンツのすべての著作者に許諾を取って権利処理をいちいち行うことはほとんど不可能だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ビジネス

NY外為市場=円・スイスフラン上げ幅縮小、イランが

ビジネス

米P&G、通期コア利益見通し上方修正 堅調な需要や
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中