最新記事

言論統制

中国、「私の名前」は「党」

2016年4月4日(月)16時45分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国、「私の名前は?」 ROMAOSLO-iStock.

 習近平総書記が「媒体姓党(メディアの名前は党)」と言ってから、心ある抗議が相次いでいる。改革開放の初期、「中国の姓は社会主義か」「それとも資本主義か」という大論争があった。中国はいま曲がり角に来ている。

中国の分岐点となった「姓社姓資」大論争

 1970年代末から改革開放が始まり、「金儲けをしてもいい」という鄧小平の号令がかかったが、中国人民はすぐには動かなかった。それまで金儲けをした者は「走資派(ゾウズーパイ)」(資本主義に走る者)として糾弾され投獄されてきたからだ。それに毛沢東は1956年に「百花斉放、百家争鳴」というスローガンの下、「何でも言っていいですよ」と人民に呼びかけ、知識人が喜んで言いたいことを言った結果、翌年には「右派」というレッテルを貼られて何百万におよぶ知識人が投獄されてしまった経験がある。

 1966年から76年までは、あの悪名高き文化大革命があった。中国政府でさえ、2000万人以上の犠牲者を出したと認めたほどだ。

 鄧小平がいくら「白猫も黒猫も、ネズミを捕る猫が良い猫だ」という言葉を用いて「金儲けに走れ」と呼びかけても、人民は「もう、騙されないぞ」と、二の足を踏んでいた。

 このころに起きたのが「姓社姓資」大論争である。

「中国は社会主義の国家なのか?」

 それとも、

「金儲けをして、資本主義の国家になろうというのか?」

 という議論だ。

 前者を「姓社」すなわち「中国という国家の名前は社会主義」といい、後者を「姓資」すなわち「中国という国家の名前は資本主義」と称して、「姓社姓資」論争が全土で巻き起こり、改革開放は思うように進まなかった。

 それでいながら、「ネズミを捕る良い猫たち」が、すでに特権を活かして金儲けをはじめ、「姓社」の中枢にいるはずの中共幹部たちが「ぼろ儲け」をしながら腐敗に手を染めはじめていた。

天安門事件で打ち切りに――「向銭看(シャンチェンカン)」(銭に向かって進め!)


 こんな紆余曲折をしながら起きたのが天安門事件だった。1989年6月4日、民主を叫び、党幹部の腐敗に抗議した若者たちの声を、鄧小平は武力で鎮圧してしまう。

 以来、中国は西側諸国から経済封鎖を受けるが、「姓社姓資」論争は、一層のこと激しくなり、成長しかけた中国の経済を冷え込ませた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中