最新記事

貿易

TPPは上位1%のためにある

2016年3月17日(木)19時51分
ロバート・ライシュ(元米労働長官)

 また、TPPには進出企業を保護する規定があるため、企業は海外投資のリスクを軽減できる。米シンクタンクのケイトー研究所は、こうして本来取るべきリスクが低下すると、アメリカで労働者のスキルを向上させながらモノ作りをしようという企業のインセンティブは後退すると指摘する。

 TPPの支持派は、巨大貿易協定はアメリカ経済の成長に寄与すると主張する。だがそれは誰にとっての成長なのか?

共和党がオバマを支えるブラックジョーク

 経済が成長しても、そのほとんどは上位1%の富裕層のものになる。残りの99%は以前より安くモノを買えるようになるとはいっても、その分は賃金の低下で相殺されてしまう。

 TPPで全体のパイは大きくなるから、理論上は、1%の勝ち組は負け組が被った損失を全て埋め合わせてまだ手元に利益が残るはずだ。だが現実には、勝ち組が負け組のために損失の穴埋めをすることはない。

 例えば、連邦議会でTPPの批准を目指すオバマ政権とって唯一の味方が、アメリカ人の賃金を低く抑えるためにありとあらゆる手を尽くしてきた共和党だというのは実に皮肉だ。

【参考記事】TPP妥結の政治的意味、日本とアメリカ

 共和党は、賃上げの試みにことごとく反対してきた。最低賃金の引き上げや(インフレ調整後の実質賃金は1968年比で25%低くなっている)失業給付の拡大、職業訓練の拡充、勤労所得控除の拡大、国内インフラの改善、公立の高等教育機関へのアクセス改善など、すべてに反対したのだ。

 共和党が主張する緊縮型の予算案は、雇用増加や賃金上昇の足かせとなってきた。そのうえ同党は「トリクルダウン(富裕層が豊かになればその恩恵が貧しい者にもしたたり落ちてくる、という理論)」を根拠に富裕層の税率を低く抑え、税の抜け穴を守り、富裕層の相続税を2000年以前の水準まで引き上げるなどのあらゆる試みを阻止し続けている。

 私自身はこれまで、ウォール街や大企業が巧みに影響力を振りかざすのを間近で見てきた。その代表が、ロビー活動や選挙への献金、会社での地位を与えるとほのめかすこともあった。

 TTPのようなグローバルな貿易協定は、ウォール街の金融機関や大企業の利益を押し上げ上位1%の富裕層を一層富ませるだろう。そしてアメリカの中間所得層の凋落は続く。

*筆者は、カリフォルニア大学バークレー校公共政策大学院教授。ビル・クリントン政権で労働長官を務めた

Robert Reich is the Chancellor's Professor of Public Policy at the University of California at Berkeley. He served as Secretary of Labor in the Clinton administration

This article first appeared on RobertReich.org.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

次期FRB議長の条件は即座の利下げ支持=トランプ大

ビジネス

食品価格上昇や円安、インフレ期待への影響を注視=日

ビジネス

グーグル、EUが独禁法調査へ AI学習のコンテンツ

ワールド

トランプ氏支持率41%に上昇、共和党員が生活費対応
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中