最新記事

人権問題

難民収容所で問われるオーストラリアの人権感覚

ボートピープルの収容施設はナチスドイツ並み?劣悪な環境で精神を病む難民が出ているとの報告も

2016年3月18日(金)17時00分
アリソン・ジャクソン

ナチス並み? ナウルの移民収容所で起きている「児童虐待」を移民局に訴えるデモ(シドニー) Jarni BlakkarlyーREUTERS

 難民認定を求めて海を渡ってくるボートピープルの密航に悩まされるオーストラリア。最近は国内からのこんな批判にもさらされている。難民申請者は強制収容所に送られて拷問を受ける──こうした非難に対して、当局が示した強気の反論が思わぬ方向で炎上している。

 議論の発端はオーストラリアがナウルなど第三国に設置した難民収容所。入国しようとする外国人の一時移送先であるこの施設の環境をめぐって、「扇情的な言い掛かり」がつけられている......。「不正確」な「嘘」に対して、マイケル・ペズーロ移民局長が「事実関係を正す」として出した声明が逆に火に油を注いでしまった。

【参考記事】オーストラリア「招かれざる客」を追い払え!

「難民収容所を『強制収容所』に例える主張がある。ナチスドイツであったとされる(ユダヤ人の)強制収容に対する一般市民の感覚の麻痺や無関心を示唆し、収容施設が『拷問』の場だとにおわせる主張だ。こうした主張は極めて不快で根拠がなく、明らかな誤りだ」

 移民局のウェブサイトに掲載されたこの声明が強烈な批判を巻き起こした。ナチスドイツで「あったとされる」という表現がナチスによる残虐行為を事実と認めていないというのだ。

【参考記事】「ナチス的」移民法は誰のせいなのか

 ツイッターでも当局への批判の声が噴出。「移民局に助言しよう。ナチスドイツという言葉の隣に『......とされる』を付けるのは不適切」「ホロコースト(大量虐殺)が『あったとされる』なんて、移民局はナチスの擁護者だ」。こうした投稿が相次ぎ、移民局は否定と釈明に追い込まれた。

収容所批判で刑事訴追?

 当局が強硬な反論を行った背景には、難民収容所をめぐる政府の決定に対する反発がある。乳児を含む難民申請者200人以上を太平洋の島国ナウルの難民収容所に送るというものだ。ペズーロは「子供を危険な場所に送ることは決してない」と主張。

 だが移民局の医療顧問は2月、収容所生活によって子供の精神面に「有害な」影響がもたらされると上院公聴会で証言している。

 オーストラリアはナウル島とパプアニューギニアのマヌス島に難民収容所を設置しているが、既に劣悪な環境で収容者が精神を病んでいるとの報告もある。

【参考記事】外国人に優しくない国ワースト5

 国連は収容者が過酷で非人道的な環境にあると指摘。オーストラリアの政治家からも、ナウルの収容所の環境は難民申請者にとって「適切でも安全でもない」との声も上がっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ

ワールド

全米で反トランプ氏デモ、「王はいらない」 数百万人

ビジネス

アングル:中国の飲食店がシンガポールに殺到、海外展
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中