最新記事

東日本大震災

<震災から5年・被災者は今(1)> 義母と補償金を親族に奪われて

帰宅困難の被災者の多くが補償金をめぐる親族同士の衝突に直面している

2016年3月2日(水)16時30分
山田敏弘(ジャーナリスト)

長引く避難生活 長期化する仮設住宅での暮らしが被災者を苛んでいる(2012年8月5日、撮影:郡山総一郎)

 東日本大震災とその後に発生した福島第一原発事故から今月11日で5年を迎える。

 東京電力福島第一原発は5年前、津波に襲われて電源を喪失し、未曾有の原発事故を引き起こした。容赦なく襲った放射能汚染で、大勢の周辺住民が避難民となり、現在でも9万8700人が一時帰宅を除いて自宅に戻ることができていない。

 筆者は、事故直後の被災地に米軍と共に入った。後に「トモダチ作戦」と呼ばれる救援活動の事前調査に投入された米軍の先遣隊に密着取材するためだ。以降5年間にわたり、福島を中心に何度となく被災地に足を運んできた。

 仕事や住まいを奪われて二度と故郷に戻ることができない農家や、東京電力の関連企業で原発の作業に従事し使い捨てられた被災者、地元出身の東京電力社員、事故後の原発に入って働いた作業員、除染作業員、被災者を受け入れてきた周辺地域の住民など、原発事故に翻弄され続ける多くの人々から話を聞いた。

 震災5年を前に、2回に分けて、2人の被災者の現状をリポートする。原発事故によって、被災者の人生は、それ以前には想像すらしなかった方向へと変化した。被災者にとってこの5年はどのような年月だったのか、そして今、どんな現実に直面しているのか。

***


 本田和子(51、仮名)は、原発から北東の内陸に25キロほど離れた福島県浪江町で、酪農を生業として暮らしていた。夫と2人の息子、そして当時83歳だった義母と、地味だがとりたてて不満もない生活を送っていた。

 近所にコンビニもないような、緑に囲まれた田舎町である。近所づきあいは親密で、隣人らと畑を共有して野菜を育てているほどだった。牛の世話をするのが中心の毎日の生活の中で、その畑で作業をするのが本田にとっての数少ない楽しみの1つだったという。

 そんな生活は2011年3月11日以降、完全に一変した。

 2016年2月に2年ぶりに本田を訪れた。まだ福島県北部にある仮設住宅に暮らしている本田は現在、思いもよらなかった事態に苛まれていた。原発事故に関して支払われた補償金をめぐり、親族内で揉め事が起きているという。それは5年経った今、多くの被災者が直面している苦悩の1つだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリア管理措置を停止 中国「正

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、米エヌビディア決算を好感

ワールド

米大統領、サウジ要請でスーダン内戦終結へ取り組むと

ワールド

サマーズ氏、オープンAI取締役辞任 エプスタイン元
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中