最新記事

性差別

女性の敵か味方か「処女奨学金」の波紋

「厳しい条件」は人権を無視した性差別かそれとも若い女性を守る現実的な方法なのか

2016年2月25日(木)17時00分
エリン・コンウェイスミス

文化的な慣習?  処女に意味を持たせるのは男性社会ならではの特徴と擁護する向きも(リード・ダンスの参加者) Rogan Ward-REUTERS

 経済的な問題を抱える大学生にとって、奨学金は命綱だ。ただし、南アフリカ東部のクワズールー・ナタール州ウトゥケラ区が導入した奨学金には厳しい条件が付いている。

 受給資格は、性経験のない女子のみ。処女であることを確認する検査を定期的に受けることを条件に、現在ズールー族の女子学生16人が学んでいる。

【参考記事】美容整形で理想の性器を手に入れる?

 この「処女奨学金」が、大きな議論を巻き起こしている。差別的で違憲だという批判に対し、賛成派は処女検査は文化的な慣習だと主張。若い女性が望まぬ妊娠やHIV感染を避け、勉学に集中しやすくなると主張する。2月初めには賛成派の地元住人が役所まで行進した。

「若い女性ほど弱い立場にある」と、奨学金を考案したウトゥケラの女性地区長ドゥドゥ・マジブコは言う。「彼女たちは援助交際目的の中高年男性と恋に落ち、病気をうつされ、妊娠し、人生を破壊される」

【参考記事】ようこそコンドーム大国へ

 奨学金を受給する学生は、休暇で帰省した際に「検査」を受ける。草を編んだ敷物に横たわり、年長の女性が処女膜を確認する。処女でなくなった場合、奨学金は打ち切られる。

「父には妻が2人いて、暮らしに余裕がない」と、薬学を学ぶ22歳の奨学生は語る。「処女かどうか、定期的に検査を受けるつもりがあるかと聞かれて、私は『はい』と答えた。自分が処女であることを誇りに思っている。そのことがこんなにたくさんの扉を開いてくれるなんて、思っていなかった」

 彼女は検査にも不安はない。「膣を開いて中を見るだけ、何かを入れられるわけではない。検査が間違っていたという話も聞いたことがない」

男女の不平等を固定化

 処女検査には、いまだに文化的な慣習という側面もある。ズールー族の王の前で未婚の女性が踊りを披露する伝統儀式「リード・ダンス」でも、参加者は検査を受ける。

 一方、この慣習がアパルトヘイト(人種隔離政策)後の憲法が定める女性の権利を侵害しているとの批判もある。人権団体ローヤーズ・フォー・ヒューマン・ライツは、処女奨学金は女子に男子と異なる性的基準を課し、男女の不平等を定着させると指摘する。

「善意だとしても、完全に不適切で差別的なやり方だ。特にこの国は、性暴力の発生率が高く、自ら望んだセックスばかりではない」と、同団体の男女平等プログラムを担当する弁護士のサンジャ・ボーンマンは言う。

【参考記事】レイプ大国オーストラリアの新事実

 南アフリカのバサビレ・ドラミニ社会開発相も、処女検査を擁護することは、控えめに言って「見当違い」だと批判。擁護するほど、男性優位社会に染み付いた有害な慣習が浮き彫りになると語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 7
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 8
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 9
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 10
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中