最新記事

中朝関係

習近平氏による訪朝――中国に残された選択

2016年2月9日(火)18時23分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

制止の甲斐なく 北朝鮮は長距離弾道ミサイルの発射実験を強行した(2月7日) Yonhap-REUTERS

 北の暴走をとめることができず、かといって安保理の制裁決議にも二の足を踏む中国に、唯一できるのは習近平国家主席が自ら北朝鮮を訪問することくらいだ。北がさらに追い詰められて戦争へと暴走すれば、中国は滅びる。

打つ手をなくした中国

 2015年5月、モスクワで開かれた反ファシスト戦勝70周年記念のときに、習近平国家主席と金正恩第一書記がモスクワで会えるように中国側は手を尽くしたが、結局、金正恩は姿を現さなかった。

 2013年7月には李源朝国家副主席が訪朝したが、その年の12月には中国の窓口となっていた張成沢(チャンソンテク)が公開処刑された。中国は早くから北朝鮮に改革開放を促し、張成沢は北朝鮮の改革開放を進めるための窓口になっていた。

 2015年9月3日に北京で行われた軍事パレードに金正恩氏を招待したが、出席したのは朝鮮労働党ナンバー3の崔竜海(チェ・リョンヘ)でしかなかった。

 それでも2015年10月に中国はチャイ・ナセブン(中共中央政治局常務委員)の党内序列ナンバー5の劉雲山氏を訪朝させ、北朝鮮で行われる朝鮮労働党創建70周年の祭典に参加させている。そのときには習近平氏の親書を携え、核実験やミサイル発射などを抑制するよう要求している。

 それでも北朝鮮はそれらすべてを無視して、今年1月に水爆実験と称する核実験を行なった。

【参考記事】暴走「将軍様」を見限れない習近平の本音

最後の一手は習近平氏による訪朝――国が滅ぶよりはプライドを捨てて

 こんな中、李源朝氏や劉雲山氏よりも、ずっと身分の低い武大偉・朝鮮半島問題特別代表を訪朝させたのは、ミサイル問題でもなければ核実験問題でもなく、あくまでも六カ国協議(六者会談)の担当者としての訪朝だ。

 今さら北朝鮮が六カ国協議もないだろうと誰もが思うだろうが、しかし北朝鮮をこれ以上追いつめれば、戦争にまで発展しかねないという危機感が中国にはある。

 戦争になった場合、中朝は実質的な軍事同盟があるので、中国は北朝鮮側に付かなければならない。ということは米軍と戦うということになる。軍力的に、今の中国には、とてもアメリカに勝つだけの力はない。となれば中国の一党支配体制は必ず崩壊するだろう。

 中朝間の軍事同盟を破棄して、中国がアメリカ側に付いたとしよう。

 ロシアが黙っているはずがないから、どちらに転んでも、これは第三次世界大戦に発展しかねない。

 こういう事態だけは絶対に避けたいというのが中国の思いだ。

 もちろん陸続きでお隣にいる北朝鮮は、在韓米軍からの防波堤になっているので、何度も言ってきたが「唇が滅びれば、歯が寒い」ので、唇だけは温存していたいという思惑もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、

ワールド

米大学の反戦デモ、強制排除続く UCLAで200人

ビジネス

仏ソジェン、第1四半期は減益も予想上回る 投資銀行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中