最新記事

朝鮮半島

北朝鮮核実験と中国のジレンマ──中国は事前に予感していた

2016年1月7日(木)19時36分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 中朝軍事同盟(中朝友好協力相互援助条約、1961年)があるため、北朝鮮はこれまで、核実験をする前に少なくとも中国には事前通告していたが、今回はそれもなかった。ロシアからも支援を受けているはずなのに、そのロシアに対しても事前通告をしていない。

 中国に事前通告ができないのは、通告したら中国があらゆる手段を使って制止するだろうことを知っているからだ。昨年10月にチャイナ・セブンで党内序列ナンバー5の劉雲山が習近平国家主席の親書を携え核実験の制止を呼び掛けている。それを無視して実行したのだから、事前通告などできるはずがない。

 ロシアに関しては、プーチン大統領は金正恩第一書記を2015年5月9日にモスクワで開催する反ファシスト戦勝70周年記念式典に招待していたというのに、金正恩は欠席した。それだけでもプーチンは不快に思っているだろう。したがって国連安保理でロシアもまた拒否権を発動しないものと考えられる。

 こうした国際情勢の中で、中国は北朝鮮が最も気にかけているアメリカとの距離感を縮めていくだろうと予測される。

 朝鮮戦争で北朝鮮が闘ったのは最終的にはアメリカをトップとする国連軍側だ。

 1953年7月の板門店における休戦協定に署名したのは、国連軍側では、クラーク国際連合軍司令部総司令官(アメリカの軍人)だった。

 北朝鮮が盛んにアメリカを振り向かせようとしている原因の一つはここにあると、中国政府関係者は言う。休戦協定でしかない朝鮮戦争の区切りを、停戦協定として講和条約に持っていくために、アメリカと会話をしたいと望んでいる。だからと言って、水爆実験までして核保有国として国際社会に認めさせようとする北朝鮮の動き方は、朝鮮半島の非核化を目指して六か国協議を呼び掛けた中国のメンツを潰すばかりだ。

 これ以上、悪のスパイラルを続けるつもりは中国にもないだろう。国連決議と制裁のゆくえを先ずは見守り、中米の距離感に注目していきたい。

 
[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国主席、APEC会議出席のため30日─11月1日

ビジネス

低利回りの超長期債入れ替え継続、国債残高は9年ぶり

ワールド

英インフレ期待、10月は4月以来の高水準=シティ・

ワールド

独総合PMI、10月53.8で2年半ぶり高水準 サ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼稚園をロシアが攻撃 「惨劇の様子」を捉えた映像が話題に
  • 3
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 4
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 7
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 8
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 9
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 10
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中