最新記事

中台関係

米の対台湾武器売却に対する中国の猛抗議と強気

2015年12月18日(金)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 以来、米中国交正常化をした後も、継続的にこの「台湾関係法」に基づいて、台湾に武器売却を続けてきているのだ。

中国政府は、本当はどう見ているか?

 台湾に武器売却を続けるアメリカに対して、中国政府は激しい抗議はしているものの、本当はどう見ているかを解説したい。主として中国の中央テレビ局CCTV軍事解説番組や中国政府高官からの直接の聞き取りに基づく。

1. アメリカが台湾に売っているのは、もうアメリカでは使えなくなった古びた武器だ。台湾の軍事力を高めることはできない。したがって両岸(中台)問題に関して、いかなる脅威も与えない。中国(大陸)の軍事力がいかに高いかは、今年おこなった軍事パレードを見れば、語るまでもないだろう。

2. アメリカが今このタイミングで台湾に武器を売るのは、大統領選があるからだ。アメリカの財団側からの支持を得て、票を集めたいと思っている。

3. アメリカが常に台湾に武器を売却するのは、米台の「親密度」を、常に台湾に見せておかなければならないからだ。アメリカはまた米台親密化と日米親密化を中国に見せようともしている。

4. 台湾が武器を購入するその金は、どこから来るのか。一つには台湾市民(国民)からの税金によるものだが、もう一つは大陸で大儲けしている台商たちのうち、親米分子がいて台湾の政府に協力している。ここが一番大きな問題で、今後も注意を払っていかなければならない。

「南シナ海問題への牽制」といった一時的な問題ではない

 日本では、このたびの武器売却を「南シナ海に進出する中国をけん制するため」と報道しているメディアが多いが、そのような短期的視野の問題だけではないだろう。

 台湾は2000年代前半の陳水扁政権時代に、あまりに台湾独立を叫んで北京政府と衝突したので、アメリカは台湾と中国(北京政府)との間で困惑していた。なぜならこの時期は、中国の経済・軍事急成長時代と一致していたからだ。アメリカとしては、中国ともうまくやっていきたい。

 そこで中国大陸に対して「特に独立を叫ばず、現状を維持する」とした馬英九政権の誕生は、アメリカにとってありがたかったにちがいない。その一方で、「大陸からの防衛のため」に、対台湾の武器売却を強化し、防衛の名の下に武器輸出を増加させている。

 この変化は、上述した人民網のデータに如実に表れている。
アメリカの、この「二面性」は、ニクソン政権の中国電撃訪問以来続いているものであり、それが沖縄返還の時期と一致していることから、「尖閣諸島の領有権に関して、どちらの側にも立たない」というカメレオン型姿勢にも表れている。

 このたびの武器売却は、たしかに南シナ海における中国の進出に対する牽制という側面は否めないものの、そういった近視眼的な要素だけで動いている事象ではない。根底にある米中台問題を大きな視野で見ないと、日本にとっても、正しい戦略を練る目が歪められる危険性をもたらすのではないだろうか。


[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。新著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

全米の大学でイスラエルへの抗議活動拡大、学生数百人

ワールド

ハマス、拠点のカタール離れると思わず=トルコ大統領

ワールド

ベーカー・ヒューズ、第1四半期利益が予想上回る 海

ビジネス

海外勢の新興国証券投資、3月は327億ドルの買い越
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中