アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「反トランプ」掲げ相次ぎ立候補
写真は11月、ニュージャージー州ウエストケープメイで、有権者に語りかけるUSAID元職員のベイリー・ウィンダーさん。REUTERS/Rachel Wisniewski
Joseph Ax
[ケープメイ(米ニュージャージー州) 18日 ロイター] - それはミーガン・オロークさん(46)にとって夢の仕事だった。米農務省の気候科学者のトップとして、食糧生産をより健康的で持続可能なものにするための研究プロジェクトへの助成金を監督していたのだ。
しかし、トランプ大統領が気候変動に関連する資金援助プログラムを標的にし始めた。オロークさんは政府のために働きながら、自分の道徳的指針、つまり大統領だけでなく国全体に奉仕することを誓い続けることはもはや不可能だと判断した。
退職から数カ月。オロークさんは2026年11月の中間選挙に東部ニュージャージー州第7選挙区から野党民主党の下院議員候補として出馬することを目指しており、トランプ氏が率いる共和党に戦いを挑む構え。この選挙区は次回の下院選で過半数を握るのがどちらの政党になるのかを決定づける可能性が高い、数少ない激戦区の一つだ。
「ちょうど1年前、私は夫と12年後の退職後の生活について計画を立てていた」とオロークさんは振り返る。「でも今年の春先、夫に突然こう告げた。『ねえ、私が今の生活をぶち壊し、仕事を辞めたらどうだろう』と」
司法省や退役軍人省、国務省、農務省など複数の連邦政府機関の元職員で、トランプ政権による組織解体が直撃して自ら辞職したり、解雇されたりした人たちが民主党候補として相次ぎ議会選挙に立候補している。各候補は公職での実績と、第2次トランプ政権発足後の数カ月間に起きた混乱での経験を選挙戦の核に据えている。
民主党は来年の中間選挙で下院の過半数を獲得するには、共和党の議席を三つ以上奪還する必要がある。実現すれば共和党が提出する法案の多くを阻止し、トランプ政権の疑惑をより力強く調査できるようになる。
<連邦政府から政治の舞台へ>
元検察官のライアン・クロスウェルさん(45)は、ニューヨーク市のアダムズ市長に対する汚職容疑をトランプ政権下の司法省が物議を醸す形で不起訴処分としたことに抗議し、辞職した。米連邦捜査局(FBI)職員だったジョン・サリバンさん(41)は、トランプ政権がFBIを武器化している姿勢に抗議し、約17年間に及んだFBIでのキャリアに終止符を打った。連邦検事補だったザック・デンボさん(40)は、法を守るという宣誓に背くことを強要される恐れから職を辞した。
トランプ氏の復帰直前に政府を離れた他の候補者たちも、トランプ氏の政府機関への攻撃が国内外での米国の国益を損なっていると選挙運動で訴えかけている。
国際開発局(USAID)の元職員ベイリー・ウィンダーさん(34)は、選挙運動に自身の旧名刺を携帯している。トランプ氏がUSAIDを破壊したことによる被害を忘れないためだ。
ロイターが取材した5人の候補者全員が確実に当選できる状況だとは言えない。オロークさんとサリバンさん、クロスウェルさんの選挙区の共和党候補は脆弱だが、まずは民主党の候補者指名争いを勝ち抜かなければならない。一方、デンボさんとウィンダーさんは共和党支持層が強い選挙区で戦っており、過去の選挙では民主党が苦戦してきた。
トランプ政権関係者によると、イーロン・マスク氏が率いていた政府効率化省(解散済み)からの圧力などで、約240万人の政府職員のうち約31万7000人が削減された。
トランプ氏が出生地主義に基づく市民権付与の廃止を試みたことに抗議して連邦検事を辞めたエリカ・エバンスさんは11月の西部ワシントン州シアトル市検察長官選挙で勝利した。
トランプ氏は肥大化した官僚機構に必要な措置だったと職員削減を正当化しているが、民主党は行き当たりばったりで無秩序だったと非難している。
ホワイトハウスは、この件に関するコメントの要請に応じなかった。
<採用のチャンスと民主党>
民主党で活動する人たちは、公務員の経験を持つ候補者は当然ながら持っている利点があると指摘する。民主党の女性公職者候補を募集する団体「エマージュ」のアシャンティ・ゴラー代表兼最高経営責任者(CEO)は「彼らは、何が有効で、何が有効ではないのかを理解している」と話す。
エマージュは元連邦政府職員向けの研修プログラムを24回開催し、計数百人の参加者を集めた。シアトル市検察長官に当選したエバンスさんは、エマージュの標準的な半年間の研修プログラムを2025年に修了している。
別の民主党系研修団体「ラン・フォア・サムシング」の創設者、アマンダ・リットマン氏は今年春に600人を超える元政府職員が公開説明会に参加したと説明した。
リットマンさんは「連邦政府で働いたような人は奉仕への愛情、地域社会への愛情、愛国心からその仕事を選んだのであって、お金のために選んだわけではない」とし、「それは選挙運動の非常に説得力のある出発点となる」と強調する。
<突然の終了>
オロークさんとクロスウェルさん、サリバンさん、デンボさんは第1次トランプ政権の政策の一部には反対した一方で、それは職務上避けられない部分だと認識していたと振り返る。
ところが、第2次トランプ政権は全く異質になることがすぐに明らかになったと語った。制約のない大統領が、伝統的な政治的規範にほとんど敬意を示さない状況が見込まれたためだ。
サリバンさんがその認識を確信したのは、2021年1月6日の議会議事堂襲撃事件で有罪判決を受けたか、起訴された1500人超の被告にトランプ氏が就任式の数時間後に恩赦を与えた時だった。
襲撃事件の参加者を特定するためにFBIで映像分析を担当したサリバンさんは、トランプ政権が襲撃事件を調査した司法省職員の排除を開始したため、自分も標的となる可能性を懸念した。
FBIで同性愛者であることを公言した中で最高位幹部の1人だったサリバンさんは、LGBTQ(性的少数者)職員の支援グループ「FBIプライド」にも関与していた。
だが、FBIプライドはトランプ政権下で解散させられた。サリバンさんはトランプ氏がFBIを露骨に政治的な組織に変質させつつあることに、ますます懸念を強めていた。
「そこにとどまって一部になることはできないと悟った」とサリバンさんは振り返る。
トランプ政権は、バイデン前政権(民主党)がFBIをトランプ氏に対する「武器」として利用した後、同局の公正さを回復していると主張している。
クロスウェルさんのキャリアは、わずか1週間の間に突然終わりを迎えた。
2月10日、トランプ政権下の司法省がニューヨーク市のアダムズ市長に対する汚職容疑の起訴を取り下げる意向であると報じられた。この決定は、移民問題でのアダムズ市長の協力と引き換えの取引と見なされ、最終的にこの申し立てを認めた連邦判事は「取引の臭いがする」と漏らした。
無実を主張するアダムズ氏とトランプ政権当局者はともに取引を否定し、代わりに司法の誤りを正していると主張した。
その後1週間で、クロスウェルさんを含めた検事の辞職が相次いだ。
クロスウェルさんは法律事務所への就職面接を受けたが、トランプ政権が政府を荒々しく支配するのを傍観できないとして連邦議会選挙への出馬を決断した。「正しいと信じるもののために戦うか、間違っていると知りながらそれを助長するかだ」と語る。
南部ケンタッキー州の検事だった元海軍軍人のデンボさんも同様の決断に至った。デンボさんは「第2次トランプ政権が始まるまでは憲法に誓った宣誓が守られていることに疑いはなかった」と語った。
元政府職員たちは選挙運動中に自らの「外部者」としての立場と、政府での経験をアピールしてきた。
ウィンダーさんは最近の選挙集会で「政治の世界には初めてだが、公共サービスには携わってきた」と語りかけた。
未経験の候補者たちは選挙活動について急に知識を付けることを求められている。連邦職員としては法律上、ほとんどの露骨な政治活動を禁じられていたからだ。
デンボさんは、選挙に出馬している他の元職員たちとグループチャットで情報交換している。「話した人の多くは、出馬など考えたこともなかった」ものの、「しかし解雇されたり、追い出されたりしたことで、これまで政治とは無縁だった人々が今や政権に対抗するために立候補している」と話した。





