最新記事

中国

中共老幹部が認めた「毛沢東の真相」――日本軍との共謀

2015年11月24日(火)17時00分

日本側資料を結びつけたのは初めて

 李鋭は、筆者が尊敬する中共老幹部の中の一人だが、今も直接連携を保っている別の老幹部は、「これまで中国側の証言は数多く掘り起こされているが、実は日本側にその記録があるかないかが、最も大きな関心事だった」として、筆者の発掘を高く評価してくれた。前述の「毛沢東は日本軍と共謀していた――中共スパイ相関図」に述べたように、岩井公館の岩井英一氏が『回想の上海』(「回想の上海」出版委員会による発行、1983年)という本の中で、潘漢年が日本軍側に「中共軍との間の停戦」を要望したことが明記してあるのを発見したからである。

 これこそは多くの歴史家が待っていたものだよ、と励ましてくれた。早く中国語に翻訳してくれと頼まれたほどだ。

 中国ではいま、心ある中共老幹部や歴史家たちが、封印されたままの党史の発掘に力を入れている。もう存命者がいなくなり、証言できる人間も少なくなりつつあることも、その焦りを強めている原因の一つだろう。

 抗日戦争時に誰が戦ったかは歴然としている。

 中国共産党内でも、8月3日の本コラム「兵力の10%しか抗日に使うな!――抗日戦争時の毛沢東」に書いた事実は、(秘かな)基本的認識になっていると、老幹部は言った。「中共軍は国民党軍の1000分の1も、日本軍と戦ってやしないよ!」と語気を荒げた。

 また筆者が「兵力の10%しか抗日に使うな!――抗日戦争時の毛沢東」で注目した「洛川会議」以外に、もっと決定的な会議があると、当時の「ある秘密会議」の名称を教えてくれた。

 これは中国共産党員も開けない扉の中に封印されているそうだ。そのことを指摘する老幹部の勇気には感心した。

 むしろ、ほんの一部ではあるが、日本人の方が中宣部(中共中央宣伝部)のプロパガンダに洗脳されてしまったままでいるという側面は否定できない。中共老幹部のように真正面から中共の党史に向かい合う必要がこんにちまでなかったため、自分の歴史認識が洗脳されていることにさえ気づかない人が、一部にだが、いるのではないかと懸念する。

 中国人歴史家たちも命がけで筆者と同様の事実を別の角度から書いており、100歳前後の中共老幹部が正直に「日本軍と共謀していた毛沢東の真相」を肯定していることに注目し、既成概念の殻を破る勇気を持ちたい。

(なお、言うまでもなく、それによって決して日中戦争における日本軍の行為を正当化するものではない。客観的な目で事実を直視し、正しい歴史認識を持とうと言っているだけである)

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送シリアに「トランプタワー」?、米大統領との会談

ワールド

難民認定の南ア白人59人が米到着、移民規制の中の優

ワールド

米共和党、予算法案に地方税やチップ課税の新たな控除

ビジネス

日経平均は大幅続伸で寄り付く、米中合意を好感 3万
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 8
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 9
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 10
    ハーネスがお尻に...ジップラインで思い出を残そうと…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中