最新記事

弾圧

米黒人少年射殺を「模範」に弾圧を正当化するミャンマー

アメリカの市民やデモに対する過剰取り締まりは、独裁国家の弾圧の格好の口実になっている

2015年8月10日(月)18時00分
パトリック・ウィン

憤怒 軍政時代に逆戻りか、と思わせる市民への暴力(3月、レトパダン) Soe Zeya Tun (MYANMAR)-REUTERS

 アメリカで抗議デモや暴動が起こったとき、警官に軍隊仕様の武器や武装車両を持たせるべきでない理由は、挙げればきりがない。

 だがここに1つ、思いもよらなかった理由がある。

 今からちょうど1年前、ミズーリ州ファーガソンで白人警官が丸腰の黒人少年を射殺した。怒って集まった群衆を、警察は催涙ガスやゴム弾で蹴散らした。こうした過剰な取り締まりは、反政府デモを力づくで鎮圧しようとする世界の独裁政権に格好の口実を与えているのだ。

 その一例がミャンマー(ビルマ)だ。数十年わたる軍政下で市民を抑圧し、世界各国から非難を浴びてきた。今は独裁制から民主制に生まれ変わる産みの苦しみの最中だ。だが道のりはまだまだ遠い。それを露呈したのが3月、レトパダンという小さな町で、教育制度の改善を求める平和的な学生や僧侶のデモを警官が襲った事件だ。警官たちは猛り狂い、警棒で学生の頭を殴っては片っ端から逮捕した。十数人の学生は、そのまま1カ月近く拘束された。



 ミャンマーは軍政時代に逆戻りしているのではないかと、専門家は緊張した。だがそんな心配は無用だと、ミャンマーのイエートゥ情報相は言う。アメリカだって、デモを力づくで制圧することがあるじゃないか。リーマンショック後に発生したウォール街占拠デモのときも、警察は催涙スプレーを使うなどして散会させた。「それでも、アメリカの民主主義が後退していると言う人はいない」とイエートゥは言う。

 さらに、これは個々の警官の資質の問題、あるいは感情コントロールの問題だとイエートゥは言う。「アメリカでも、過度の緊張下で過剰反応してしまう個人はいる。行動規範をいかに徹底するかの問題だ」「極めて感情的になってしまうような現場もある。だからこそ、怒りをコントロールできるようにしなければならない」

ほくそ笑むミャンマー当局

 米政府は長年、反体制派を弾圧するミャンマーの軍政を批判し、反体制派の重要人物をもてはやし、物心両面で支援してきた。3月には、バラク・オバマ米大統領が半世紀前の黒人差別反対デモ「セルマ大行進」の記念式典に出席した際、ミャンマーの「軍政に屈服するより牢獄に入ることを選んだ」多くの反体制派をたたえた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中