最新記事

中東

混迷極める中東情勢、自力の枠組み構築は不可能に

2015年7月3日(金)18時34分
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)

 エジプトでは、選挙で選ばれたモルシ大統領が13年に軍によるクーデターで失脚。今年6月、死刑判決を受けた。現在、大統領に就任しているのは、軍のトップで国防相を務めていたシシだ。

 要するに、中東は混乱を極めており、地域の安全保障と外交の枠組みを自力で構築することはもはや不可能だ。世界の大国による、実質的で慎重な外交努力が求められている。

 中東が重要な地域である理由は、石油だけではない。対立が悪化して拡大すれば、やがて大国を巻き込むと、私たちは20世紀に学んだはずだ。

 ISISなど過激派との戦いは、軍事的にもイデオロギー的にも消耗戦だ。地域の包括的な枠組みだけでは倒せないだろう。しかし、イランやサウジアラビアが次々に代理戦争の火を放てば、世界は危険にさらされる。

 ナポレオン戦争で混乱したヨーロッパは、1814年に始まったウィーン会議で新たな国際秩序を築いた。オーストリアの外相として会議を主宰したメッテルニヒのような政治家は、現代の中東にはいない。

 ここで、日本は独自の役割を演じることができる。日本政府とサウジアラビア政府の関係はかなり良好で、イラン政府との結び付きも強い。日本は双方から信頼を得ている数少ない国として、地域の外交および安全保障の枠組みづくりを主導すれば、全体として受け入れられやすいだろう。

 欧米や中国にも果たせる役割はあるが、先頭に立つのは日本が最適だろう。リスクの高い外交戦略だが、力強い外交姿勢を発信すれば、日本が地政学の主役に復帰したというのろしになり、アジアを代表する民主主義国として歓迎される。

[2015年7月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ協議の早期進展必要、当事国の立場まだ遠い

ワールド

中国が通商交渉望んでいる、近いうちに協議=米国務長

ビジネス

メルセデス、2027年に米アラバマ工場で新車生産開

ワールド

WHO、成人への肥満症治療薬使用を推奨へ=メモ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中