最新記事

韓国

朴政権の「歴史歪曲」で大モメ

朝鮮戦争中の軍による民間人虐殺に関する記述の削除を求めるなど政府が介入

2015年4月21日(火)14時30分
スティーブン・デニー

右翼的? 安倍政権の歴史教科書修正に不満げな韓国にも同様の問題が Reuters

 韓国で高校の歴史教科書をめぐる裁判が1つの決着をみた。ソウル行政裁判所は先日、韓国教育省の内容修正命令を適法と判決。政府が教科書に「口出し」することが認められた。

 教育省が教科書の出版社に記述の変更を命じたのは13年。修正要求は何百カ所にも及び、その是非をめぐり大論争が起きた。

 軍事独裁政権を美化し、保守派の国家観を正当化する動きだとして、左派は猛反発。朝鮮戦争中の軍による民間人虐殺に関する記述や、第1回南北首脳会談の写真の削除を求めるなど、「右翼的な偏向」とみられかねない修正命令もあった。執筆陣はこれを不服とし、命令の取り消しを求めて提訴していた。

 裁判所は、教科書の記述変更を求めることは教育省の権限の範囲内だと判断。修正内容を決定する手続きにも法的な問題はなかったとされた。

 審理の過程では、個々の修正内容が細かく検討された。

 例えば、1946年の土地改革法に金日成(キム・イルソン)率いる北朝鮮臨時人民委員会が果たした役割については、記述に歪曲や誤りがあるため「訂正」が必要だと、判決文は指摘。北朝鮮の主体(チュチェ)思想については「学生が北朝鮮の政治的立場を正確に理解できない記述になっている。補助的な分析を提供すれば、深い理解に役立つ」とされた。

 朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の経済政策と、97年のアジア通貨危機の記述も裁判の争点になった。判決文は「明確な関係性がなく、経済的証拠もない歴史的出来事を強引に結び付ける記述は国民にも歴史学者にも受け入れられにくい」と述べている。

 朴槿恵(パク・クネ)大統領が独裁支配を目指しているとみる者は、今回の判決をその証拠と受け止めただろう。だが、歴史の修正を企てるのは保守政権だけではない。政府が語る歴史は、その支配を正当化するために意図的に歪曲されたものになる。為政者が代わっても、歴史教科書を書き換える動きがなくなることはない。

From thediplomat.com

[2015年4月21日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中