最新記事

ジェノサイド

国際法廷では裁けないISISの残虐行為

「戦争犯罪」と認定すべきとの声もあるが、簡単にはいかないこれだけの理由

2015年4月16日(木)16時19分
ジョシュア・キーティング

虐殺 ティクリートではISISに殺害されたと思われるイラク兵の大量の遺体が発見された Reuters

 悪名高きテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の残虐行為は「戦争犯罪や人道に対する罪、あるいはジェノサイド(民族大虐殺)に相当し得る」。国連イラク支援ミッションと国連人権高等弁務官事務所は先頃、そう結論付ける報告を発表した。民間人の大量虐殺や女性の性奴隷化、児童虐待、拷問など、ISISによる非道な人権侵害行為の数々は広く知られるところだ。

 ISISはキリスト教徒やヤジディ教徒、イスラム教シーア派など、特定の宗派や民族を標的としてきた。イラク政府軍が奪還した要衝ティクリートでも、イラク兵の遺体が大量に発見されている。「兵士ら1700人を殺害」と豪語するISISの主張が裏付けられた格好だ。

 こうした事実を突き付けられた今、ISIS壊滅のための熾烈な戦いに加えて、国際社会にできることは何か。

 ISISの指導者らをオランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)で起訴すべきだという声は高まる一方だ。だがICCのファトゥ・ベンスーダ検察官は、ISISは「口にするのもおぞましい数々の犯罪」を犯してきたが、ICCの権限で起訴することは難しいとする。当該の犯罪行為が起きたイラクとシリアは、ICCの起訴手続きを規定した国際条約に加盟していない。名前の割れているISIS幹部の国籍はこの両国にあると思われるから、ICCは原則として手を出せない。

 ただしICC加盟国の外国人戦闘員(例えば処刑ビデオに頻繁に登場するイギリス人の「ジハーディ・ジョン」ことモハメド・エムワジ)なら、理論上はICCで裁くことができる。だがそれは、締約国の請求があった場合に限られる。またICCが非加盟国で犯罪捜査に着手するには、国連安保理による付託という手続きが欠かせない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中