最新記事

ナイジェリア

テロリストとの取引は許されるか

1度に200人以上の女子生徒を拉致したボコ・ハラムは、釈放の条件として当局に捕まっている戦闘員の解放を迫るが

2014年5月28日(水)16時16分
ジョシュア・キーティング

人質交換? テロリストとの取引を拒否したグッドラック・ジョナサン大統領 Denis Balibouse-Reuters

 ナイジェリアのイスラム過激派組織ボコ・ハラムが270人以上の女子生徒を拉致してから1カ月。先週、連れ去られた少女たちがコーランを暗唱する映像が公開された。その中で組織の指導者アブバカル・シェカウは、収監中のメンバーとの人質交換をほのめかした。

 少女たちの生存が確認されたのは朗報だ。しかしナイジェリア政府は、テロリストと交渉するべきかどうかというジレンマを突き付けられた。

 米軍などの軍事支援を受け入れている政府が軍事行動に踏み切り、少女たちを救出できれば一番いい。ただし、この手の救出作戦で人質が生還したケースは、決して多くない。

 12年にナイジェリア軍とイギリスの特殊部隊が、ボコ・ハラムに拉致されたイギリス人とイタリア人の救出を試みた際は、人質が2人とも殺害された。一方で、13年にカメルーンでやはりボコ・ハラムに誘拐されたフランス人家族7人は、300万ドルの身代金で解放された。

 今回のように世界的に注目されている重大な犯罪を犯したテロ組織と交渉のテーブルに着けば、同じような行為を誘発しかねない。ナイジェリア政府は誘拐を防げなかったことで国内外から批判を浴びており、交渉に応じれば弱腰と見られるだろう。

 今のところ、ナイジェリア政府は交渉に応じないと表明している。「いかなる形であれ人身売買に加担するつもりはない」と、大統領報道官は言う。

 もっとも、政府が「テロリストとは交渉しない」としきりに言うときは、裏で交渉している最中だ。テロ対策の専門家ピーター・ニューマンは07年にフォーリン・アフェアーズ誌で次のように書いている。

「イギリス政府は、91年にIRA(アイルランド共和軍)が閣議中の英首相官邸を迫撃砲で攻撃して政府を丸ごと吹き飛ばしかけた後も、IRAと秘密裏に対話を続けた。スペイン政府は87年、バスク独立を求める民族主義組織、バスク祖国と自由(ETA)がスーパーを爆破して21人の買い物客を殺害したわずか半年後に、ETAと交渉のテーブルに着いた。パレスチナ解放機構(PLO)はテロ行為を繰り返し、イスラエルを国家として認めていなかったが、イスラエル政府は93年のオスロ合意で秘密裏に交渉に臨んだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、欧州諸国の「破壊的アプローチ」巡りEUに警

ビジネス

英製薬アストラゼネカ、米国への上場移転を検討=英紙

ワールド

米EV推進団体、税額控除維持を下院に要請 上院の法

ビジネス

マネタリーベース6月は前年比3.5%減、10カ月連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中