最新記事

歴史

韓国が戦争犯罪を認めない訳

日本の植民地支配を非難する韓国だが、ベトナム戦争で行った残虐行為は一切認めない

2013年10月16日(水)14時21分
ジェフリー・ケイン

歴史を葬る 南ベトナムで戦う韓国兵は非情さで知られていた(写真は68年) Keystone-FranceーGamma-Keysone via Getty Images

 ただでさえ東アジアは緊張しているのに、日本と韓国の保守強硬派は互いの国の過去を暴き、そっちのほうがひどいと非難の応酬をしている。そのあおりで、韓国兵がベトナム戦争で行った残虐行為に光が当たっている。

 日韓の因縁は1910年から45年まで続いた日本の統治時代にさかのぼる。近代化と称して強制労働が課され、性的虐待が行われ、学校では韓国語の使用が禁じられた。
 
 日本憎しの思いが高じて、アメリカは原爆で太平洋戦争を終わらせず、日本を徹底的に打ちのめせばよかったとネットに書き込む韓国人もいる。

 対して日本の保守派は、韓国兵の過去の残虐行為を持ち出して反撃に出ようとしている。

 ベトナム戦争の際、韓国は30万もの兵士を南ベトナムに送り込んだ。海外メディアは米軍の残虐行為に焦点を当てたが、韓国軍部隊はその非情さで知られていた。

 米軍の介入が本格化した60年代後半に、韓国軍はベトナムの中央高地の複数の村で住民を大量虐殺した。元韓国兵やベトナム人生存者の証言によれば、ビンタイでは村民の家屋に火を放ち、逃げ惑う人々に無差別に発砲したという。ソンティンやタイビンなどでは村民を無差別に処刑したとされる。

 日本の保守強硬派は、旧日本軍の「従軍慰安婦」と同様の事例が韓国軍にもあったと非難する(韓国兵とベトナム人女性の間に生まれた多数の混血児「ライダイハン」の存在は知られているが、そのどこまでが性的虐待の結果かは不明だ)。

 韓国兵がベトナムで村人を虐殺したのは、村人に紛れた共産ゲリラの襲撃を恐れたからだ。韓国軍は1度の攻撃で数十人ないし数百人を殺害したという。旧日本軍の行為に比べれば規模は小さいが、残虐行為に違いはない。韓国でも一部の市民団体は事実関係の検証を求めている。

認めても謝ってもいない

 だが日本政府と違って、韓国政府は自国の過去の蛮行を公式に認めようとしない。「このような意図的で組織的な民間人の虐殺を韓国軍が行うことはあり得ない」と韓国国防省の広報官は言う。「あればとっくに公になっていたはずだ」

「韓国軍は共産化を食い止めるために戦い、規律正しく任務を果たした。ベトナム女性への性的搾取は一切なかった」とも。

 専門家によれば、資料不足で韓国兵の関与は確認しづらい。アメリカでもベトナムでも、米軍のソンミ村虐殺事件や枯れ葉剤使用については精力的に調査が進められた。だが韓国は80年代後半まで独裁政権下にあったため、批判的な報道は存在しなかった。

「韓国兵の行為にはメディアも人権活動家も目を向けなかったから、韓国側は知らぬ存ぜぬで通すことができた」と、ベトナム戦争の元従軍記者でベトナムや韓国についての著書もあるドナルド・カークは指摘する。「以前、ベトナムで戦ったことのある韓国兵が300人殺したと自慢げに話すのを聞いたこともある」 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 5
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中