最新記事

内戦

シリアで始まった対メディア戦争

反政府勢力が報道規制を強い、ジャーナリストの犠牲も増えるなか、バランスの取れた記事はますます減っていく

2013年5月30日(木)14時39分
ジェイミー・デトマー

戦いの果て 北東部の都市デリゾーリの通りでソファに座るFSAの兵士 Khalil Ashawi-Reuters

 空爆に砲撃、狙撃に拉致。シリア内戦を取材する記者には、厄介なことが付きまとう。加えて、トルコ国境地帯を支配する反政府勢力の自由シリア軍(FSA)は外国人記者に、自分たちの指定する通訳や運転手を使うよう求めるようになった。

 FSA側によれば、この措置はジャーナリストの安全を確保するとともに、「戦争観光客」を排除するためだ。このところ好奇心からシリアに入国する外国人が増えたと伝えられている。

「3週間前にやって来た男は、自分で『観光客だ』と言っていた」と、国境地帯にあるFSAの報道本部を指揮するマフムード・マフムードは言う。「彼はアレッポに行きたがっていたが、われわれは止めた。さもないと拉致か狙撃に遭ったかもしれない」。FSA側はこの措置で、経験の浅いフリーランス記者の入国を阻止できるとも説明する。

 だが本当の目的は、資金調達と報道規制だと疑う記者もいる。シリアで何度も取材してきたアメリカ人記者は最近、FSA側の指名した通訳を同行させることを条件に入国を許された。後に彼はシリア人運転手から、通訳は記者の行動を見張るよう命令されていたと教えられた。

 シリア北部の住民は、この地域を支配するFSAへの批判を強めている。2年以上続くこの内戦を取材してきた記者たちは、反政府側が批判的な報道をさせないようにしたり、記事の内容に注文を付けてくることが増えたと言う。

 記者たちが恐れるのは、FSAの通訳に見張られたり取材対象が指定されることで、彼らに都合のいい記事を書く羽目になることだ。FSAの運転手や通訳の前では、住民も本音を口にしにくい。「新方針の目的が記者の保護だというのは信じ難い。第1にカネ、次が報道規制だろう」と、ヨーロッパ出身のカメラマンは語った。

 記者は戦場で行動を共にする人間と強い信頼関係で結ばれることが多い。ところがギリシャ人記者のA・ディミトリウが言うように、シリアでは「信頼できない見知らぬ人間と仕事をしなくてはならない」。

 シリア取材の危険度は増すばかりだ。アルカイダ系の「アルヌスラ戦線」のような過激な武装勢力が台頭し、拉致を狙う犯罪グループも増えている。

 一枚岩でない反政府勢力と政府側の熾烈な戦いの中に、ジャーナリストの安全地帯などあるはずがない。これまで十数人の記者が行方不明になっている。ワシントン・ポスト紙に記事を送っていたオースティン・タイスは政府軍に拘束されているといわれ、ニュースサイトのグローバル・ポストのジェームズ・フォーリーは、昨年11月にシリア北部で拉致された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

7日に米国内農家支援措置発表へ、中国による大豆購入

ビジネス

米国株式市場=主要3指数最高値、ハイテク株が高い 

ワールド

トランプ氏、職員解雇やプロジェクト削減を警告 政府

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中