最新記事

タンザニア

マサイ族を追い出す政府の思惑

狩猟ビジネスで観光誘致をするためマサイ族から土地を奪おうとするタンザニア政府

2013年5月10日(金)16時08分
トリスタン・マコネル

先住民の権利は 今も多くが伝統的な遊牧生活を営むマサイ族 Chris Jackson/Getty Images

 タンザニアの先住民族であるマサイ族が、土地を追われるかもしれない。タンザニア政府が、北部のセレンゲティ国立公園とヌゴロンゴロ保全地域に隣接する約1550平方キロの土地を、「野生生物回廊」に指定しようとしているからだ。

 政府は何万人ものマサイ族が暮らすこの一帯を、スポーツ狩猟のできる一大観光地域にしようとしている。マサイ族を追い出し、狩猟ビジネスの場に変えようというわけだ。過去21年にわたりこの地域で観光ビジネスを行ってきたアラブ首長国連邦の観光会社が、「野生生物回廊」で狩猟ビジネスを拡大させる。

 活動家らは、この計画でマサイ族は伝統的な遊牧生活を維持できなくなると指摘する。マイノリティ・ライツ・グループ・インターナショナルのカール・ソダーバーグは、「強制移住で重要な放牧地と水を失い、生活は困窮するだろう」と言う。

 人権問題などに取り組む市民団体アバーズは、ネット上で計画に抗議するよう訴えた。すると先週までに、キクウェテ大統領に計画中止を求める170万以上もの署名が集まった。

 マサイ族は立ち退き後につくられる「ロリオンド狩猟制限地区」内に移住する権利が与えられている。だが、カガシェキ観光・天然資源相は最近になって、その権利すら否定しようとしている。「この国では土地は大統領のもので、国民には貸し出されているだけだ」と、カガシェキは言う。「土地がマサイ族に譲渡されたことはない」

 先住民族の支援団体サバイバル・インターナショナルのジョー・ウッドマンによれば、この計画は営利目的の狩猟場に村があることを禁じた09年の法律改正に乗じたものだ。「マサイ族は土地の民営化と分割に苦しめられてきた。彼らの遊牧生活は、個人や企業への土地分配で縮小を続けている。もう土地を失うわけにいかない」

 09年にマサイ族が強制退去させられた際は家が焼かれ、逮捕者も出た。政府とマサイ族が対立を続ければ、今後、大規模な事件に発展するかもしれない。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中