最新記事

少子化

ロシアを阻む人口減少の罠

2011年12月16日(金)13時59分
フレッド・ウィア

 そんな事態を防ぐため、プーチンは2000年に大統領になって以来、何かと手を打ってきた。子供が3人以上いる女性には巨額の手当(たいていは1万㌦前後。地方なら小さなアパートを買える額だ)を支給している。バルト3国や中央アジアなどの旧ソ連圏に住むロシア民族の帰国を促すための奨励策も用意した。

 一方で現職大統領のドミトリー・メドベージェフは、大々的な反飲酒キャンペーンの先頭に立っている。

 こうした対策は、それなりの効果を挙げている。男たちの死亡率はほぼ横ばいとなり、出生率は過去10年でかなり改善された。03年に58歳だった男性の平均寿命は、現在では63歳にまで延びている。

 だが「前向きな変化も見られるが、マイナス要素を覆すには足りない」と言うのは、モスクワにある経済高等学院の人口統計学者アナトリー・ビシュネフスキーだ。「既に出生率の増加は頭打ちであり、もっと包括的な解決策が必要だ」

 プーチンのユーラシア連合構想は、こうした要望に応えるものでもある。

 旧ソ連時代は、労働者や兵士の多くを中央アジアの連邦構成国から調達していた。これらの地域にはイスラム教徒が多く、出生率は高く人口も順調に増えていた。今でも、好景気に沸くモスクワ周辺の建設現場やその他の単純労働には、タジキスタンなど旧ソ連構成国からやって来た貧しい移民労働者が従事している。

 ロシア主導で正式な国家連合ができれば、ロシア政府はソ連時代のような経済統合効果を期待できそうだ、という観測もある。例えば労働力の移転だ。ロシアが開発を進める経済特区に、中央アジアの豊富な労働力を期間限定で投入することも可能になるだろう。

 ロシアには昔から、アジア人を住民として迎えることに対する強い抵抗感がある。しかし期間限定であれば、移民対策という厄介な問題に手を焼かずに済むかもしれない。

改革がすべての解決策

 だがプーチン構想も、シベリアや極東の広大な領土の過疎化という深刻な問題の解決にはならないかもしれない。旧ソ連圏にいるロシア系住民をシベリアや極東地域に定住させようという取り組みは、ほとんど成果を挙げていないからだ。

「ロシア民族なら、当然のようにモスクワに住みたがる。そこに経済的なチャンスがあるからだ。昔からの住民さえ逃げ出すシベリアの奥地には行きたがらない」と、カーネギー国際平和財団モスクワセンターのニコライ・ペトロフは言う。

 最終的にはプーチンも人口の縮小に勝てず、ソ連の復活という夢を捨てざるを得なくなる。そして政府の介入を減らし、真に自由な市場改革へと向かうのではないか──そんな期待を語るのは、メドベージェフ派とされるモスクワのシンクタンク、現代開発研究所のエフゲニー・ゴントマクヘルだ。

「領土のあらゆる場所に人を住まわせる必要があるとは言うまい。しかし戦略的な理由から、中国との国境地帯にはロシア人を住まわせておかないといけない。経済成長著しいアジアの一員になりたければ、気は進まなくとも国を開放し、改革を行うしかない」

 人口の縮小を食い止め、増加に転じさせる方法はある、とゴントマクヘルは言う。「しかし、それには指導者たちの思考方法を根本的に変える必要がある。経済的な機会を創出し、国家主導の計画などは捨てることだ。これは歴史的な大事業だ。そして、私たちに残された時間はあまりない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、赤沢氏を重要物資安定確保担当相に任命 対

ワールド

スペイン、米軍機の領空通過を拒否 対イラン攻撃で

ワールド

英住宅ローン承認件数、2月は3カ月ぶり高水準 今後

ビジネス

イスラエルの26年経済成長率、戦争長期化なら3.3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 2
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 3
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカートニー」を再評価する傑作映画『マン・オン・ザ・ラン』
  • 4
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 5
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 6
    【銘柄】東京電力にNTT、JT...物価高とイラン情勢に…
  • 7
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 8
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    カタール首相、偶然のカメラアングルのせいで「魔法…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中