最新記事

韓国

スター朴槿恵を待つ大統領への険しい道

来年の選挙に向け独走状態と言われたが、野党の福祉バラマキ攻勢の前に苦戦が続く?

2011年10月4日(火)13時58分
知久敏之(本誌記者)

優位は続くか  経済好調の間は人気だった朴槿恵だが  Jo Yong hak-Reuters

 来年に大統領選を控えた韓国では、圧倒的な人気を誇る与党・ハンナラ党の朴槿恵(パク・クンへ)元代表が独走状態にあると言われている。ところが先週行われた大統領選の前哨戦と位置付けられるソウル市の学校給食無料化をめぐる住民投票で、ハンナラ党は福祉強化を掲げる野党勢力に手痛い敗北を喫してしまった。

 野党勢力が市議会の多数派を占めるソウルで、学校給食を全面無料化する法案が制定されたのは昨年末。所得水準に関係なく福祉サービスを強化する野党の「普遍的福祉」政策の一環だ。

 所得水準に応じて福祉サービスを提供する「選択的福祉」を主張するハンナラ党の呉世勲(オ・エフン)市長はこれを「地方財政を破綻させるポピュリズム」と批判。住民投票を実施し、もし投票率が低迷して投票自体が無効になれば辞任する考えを示していた。しかしふたを開けてみれば、投票率は住民投票の成立に必要な33・3%に届かず、呉は市長を辞任した。

 来年12月の大統領選を前に国内最大の票田であるソウルで敗北したことで、朴は出鼻をくじかれた。朴は6月に李明博(イ・ミョンバク)大統領と会談して、大統領選に向けた活動に本格的に乗り出す考えを表明。8月には米フォーリン・アフェアーズ誌電子版に北朝鮮政策のビジョンを寄稿し、強硬策にも融和策にも偏らない「均衡政策」を打ち出している。

 波瀾万丈な経歴から、朴の知名度と人気は韓国で抜群に高い。79年に暗殺された朴正煕大統領の娘で、04年にハンナラ党の代表に就任。06年の統一地方選では遊説中にナイフで切り付けられて顔にけがを負いながら、同情票を集めてハンナラ党に地滑り的な勝利をもたらした。今年7月の世論調査で朴の支持率は33.6%で、野党・民主党の孫鶴圭(ソン・ハッキュ)代表(8.7%)や文在寅(ムン・ジェイン)元大統領秘書室長(8.2%)ら他の政治家を大きく引き離している。

 しかし経済成長を最優先させた現政権の下、韓国では所得格差への不満が高まり、野党勢力が掲げる「普遍的福祉」への支持が広がりつつある。有権者の意識を反映した住民投票の結果に、ハンナラ党は危機感を強めている。

 野党勢力が統一候補を擁立して「政権交代」を訴えれば、接戦に持ち込まれるという観測もある。断トツ人気とはいえ、朴にとって韓国初となる女性大統領への道のりはまだ険しい。

[2011年9月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中